「高齢者は危ないからクルマに乗るな」「老人は免許を返納しろ」という世間の風潮に現役医師(63)が反発する“納得の理由”

 超高齢化社会にありながら、年齢だけを理由に高齢者を厄介者扱いする意見も少なくない。そう指摘するのは、精神科医の和田秀樹氏だ。なかでも、最もありえないのが「免許返納」に関する一連の反応だという。はたして、同氏がそのように訴えるのはなぜなのか。

 ここでは、和田氏の著書『わたしの100歳地図』(主婦の友社)の一部を抜粋。免許返納問題に関する主張を紹介する。(全2回の2回目/前編を読む)

お仕着せの免許返納はありえない

 運転免許も超高齢社会だからこそ大切に考えたい権利の一つです。

 団塊世代を中心とする70代、80代の人たちは、現役時代には一生懸命に働き、間違いなく日本の高度経済成長を支えてきた世代にもかかわらず、世間では、高齢者というだけで厄介者として、「福祉や医療を圧迫する」「税金、年金をつぶす」というような言われ方をされています。あげくの果てに高齢者の運転は危険だと決めつけられて、「危ないからクルマに乗るな」「免許を返納しろ」など、そこまで言われても反論せずに、国や家族の言いなりになっておとなしく暮らしているようにわたしには見えています。

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 自分事として、これから70歳、さらには80歳の壁も破って暮らしていくなかで、確かに免許の返納は考えなければならないと思っていますが、わたしが多くのメディアでさんざんお伝えしてきたとおり、日本の高齢者がさまざまな自粛を強いられているなかで、最もありえないと思っていることの一つが、この「運転免許の返納」なのです。テレビのニュースや新聞の記事で、高齢者ドライバーの事故が取り上げられるとき、事故原因の多くにアクセルとブレーキの踏み間違いを耳にする機会は皆さんも多いことと思いますが、世間の目は「高齢者」「踏み間違え」というだけで、認知機能や運動機能の低下によるものと決めつけて、高齢者の運転は危険であるということが刷り込まれています。これが、運転免許を自主返納する動きへとつながっているような気がしてなりません。
 さらに、国では70歳以上のドライバーに対して、免許証更新の前に「高齢者講習」を受けさせ、75歳以上になると高齢者講習のほかに「認知機能検査」の受検も義務づけています。なぜ、75歳以上だけが検査を受けなければならないのか。ドライバー全員に検査を受けさせるのならわかりますが、高齢者だけに義務づけるのは年齢差別であり、高齢者いじめともとらえられかねません。これではまるで、高齢者は認知機能が低下しているのだからさっさと免許を返納しなさいと言っているようなものです。

高齢者ばかりがやり玉に

 実際に警察庁が定期的に発表しているデータ「令和4年中の交通事故の発生状況」から、「原付以上(自動車、自動二輪車および原動機付自転車)運転者の年齢層別免許保有者10万人当たりの交通事故件数」を見てみると、16~19歳が1039・2件と圧倒的に多く、次いで20~24歳が597・2件、この次に85歳以上が498・4件とくるのですが、このように若い世代に事故が多いことがわかっていても、世間の目は高齢者に冷たいのです。

 確かに、高齢になると、動体視力や反射神経が衰えてくるため、ペダルの踏み間違いによる事故が増える傾向にありますが、このような事故は高齢者に限らず、すべての世代で起こりうる事故ですし、実際に起きています。
 年老いた親の運転免許証を返納するよう、息子や娘が説得する姿が美談のように語られていますが、わたしにはとても違和感があります。免許証返納による親が抱えるリスクについて考えたことはあるのでしょうか。

免許証返納が認知症を招く

 都心部に住んでいる場合は、クルマを使わなくても生活に支障はきたさないかもしれませんが、地方に住み、スーパーやコンビニに行くにもクルマが必要な人が運転免許証を返納し、引きこもってしまえば、外出の機会を失い、活動量が激減するため、わずか数年で要介護状態になったり、認知症となったりする危険性が高まります。筑波大学の調査では、高齢者全員に免許証を返納させたら、要介護率は約2・2倍に増えるということが報告されており、むしろこちらのほうが問題です。
 もちろん、ご自身の身体機能や脳機能に合わせての判断は必要で、さらには自分からもう運転はしたくないということであれば返納していいと思いますが、単なる年齢で切り捨てるような考え方ではなく、まだ十分に運転ができるのであれば75 歳を過ぎたからといって免許証の返納を考える必要はなく、逆に免許証を返納することで生活に支障をきたし、死活問題にもなるという人であれば、返納するべきではないということです。

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はっきりと自分の権利を主張し、我慢を強いられる世の中を変えていくべき

 早急にすべきなのは、免許証返納よりもアクセルとブレーキの踏み間違いを防止するような機能をもつ安全に運転できる自動車の普及や自動運転の開発、そして子どもや高齢者をはじめとした交通弱者が安全に通行できる交通インフラの整備など、ハードとインフラ両方の安全面を社会全体でサポートしていく、そのような体制を整えることではないでしょうか。

 家族に言われたからとか、周りが免許証を返納するからといった理由で自分も免許証を返納するのではなく、はっきりと自分の権利を主張し、わたしたち自身の手で我慢を強いられる世の中を変えていくべきなのです。