「70代」ほど、「肉を食べなければいけない」意外な理由

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「老いと闘う」のか「老いを受け入れる」のか——。

どれほど医学が進歩しても、人間は不老不死を得ることだけはおそらくできません。そうである以上、しかるべきタイミングがやってきたらそのときは自分自身の老いと向き合う必要が当然あります。

本記事では、精神科医の和田秀樹氏が特に70代以降で気を付けるべき点について、くわしく解説していきます。

※本記事は和田秀樹『年代別 医学的に正しい生き方 人生の未来予測図』から抜粋・編集したものです。

70代ほど肉を食べなければいけない理由

70代は、若い頃から体を動かしていた人と、動かさなかった人との差が大きく顕在化する時期でもあります。

20代、30代の人がスキーで転倒して足を骨折し、病院のベッドで1ヵ月寝たきりの生活をしたとしても退院すればまもなく普通に歩くことができるようになりますが、70代ではそうはいきません。

寝たきりの生活がつづくと筋力が低下し、骨折が治った後も、「立つ」「歩く」といった日常生活に必要な動作に支障を来すようになり、介護が必要になるリスクが高くなってしまいます。こうした「ロコモ(ロコモティブシンドローム=運動器症候群の通称)」がめだってくるのも70代からの特徴です。

だから70代こそ意識して体を動かす必要があるのですが、70代ともなると前頭葉が萎縮し、男性は男性ホルモンも減っているうえに、動脈硬化もかなり進行していますから、身体を動かす必要があるとわかっていても、もはやなかなか動こうとしない人が増えてきます。

私がスポーツクラブに行くと、周りの会員で70歳以上と思われるのはほとんどが女の人です。男性も定年退職していて時間はあるはずですが、なかなかいないのはやはり男性ホルモン減少の影響が大きいと思われます。女性の場合、更年期を終えた頃から70代くらいまでは男性ホルモンが増えて行動的になりますが、男性の場合は逆に男性ホルモンが減り、行動意欲が失われるからです。

したがってこれまでにも再三述べているとおり、年をとればとるほど、毎日の食事を通じて男性ホルモンの材料になる肉やコレステロールを摂取する必要があります。コレステロールは主要な男性ホルモンである「テストステロン」の材料であり、これを減らすのは、ホルモン医学の立場でいえばまったくの逆効果でしかありません。

女性ホルモンと骨粗鬆症

女性の場合、先ほども述べたように閉経後の60代から70代にかけて男性ホルモンが増加するので元気になる人が多いのですが、その一方で女性ホルモンが減りますのでそれにともなう問題がないわけではありません。女性ホルモンが減ることの弊害としては、肌つやが悪くなることのほか、じつは骨粗鬆症の原因にもなることがわかっています。

最近では、骨粗鬆症は薬で治すこともできるとされており、「骨の量を増やす薬」なるものも処方されているのですが、じつはこの薬、処方した人の2割から3割に何らかの胃腸障害が出る、かなり強い副作用があります。そのため飲んだ人がかえって食欲をなくしてしまい、骨がスカスカになってしまうことが珍しくない厄介な薬でもあります。

こうした副作用が臨床医のあいだでは当たり前に語られるのですが、日本老年医学会が発行している『高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015』では、「特に慎重な投与を要する薬物のリスト」にも「開始を考慮するべき薬物のリスト」にも「なし」と書かれています。これが両方とも「なし」とされているのは、この疾患だけです(漢方薬でさえ、注意事項が書かれています)。

私に言わせれば、これは単に老年医学会の重鎮に骨粗鬆症の専門家がいたことを忖度していると疑われても仕方ありません。

こうした状況ですので、骨粗鬆症を防ぐには適度な運動をし、日光によく当たること、あるいはビタミンDが多く含まれている食品をとるなど、ごく常識的なことをする心がけが大事になります。

女性の場合、この年代になっても運動をする人は多いですし、フィットネスクラブなどにも積極的に通う傾向があります。ただ骨粗鬆症を予防するという目的に立つなら、日光を浴びることができるぶん、屋内で運動するよりも戸外の散歩のほうがおすすめです。

日に当たらない生活があまりに長くつづくと鬱になりやすいのは広く知られている通りです。鬱病や不眠症を予防し、骨粗鬆症の予防にもなる日光浴は、70代女性にとっての格好の健康法なのです。

ただ、ファッションや美容への関心が強い今の60~70代女性の場合、「紫外線を浴びるとシミになる」などと考え、日光に当たりたくない人も多いかもしれません。しかし、今の医学に頼れば、シワをボトックスで伸ばすことができるのと同じように、シミに関してもトレチノインなどでめだたなくできます。美容への障りになるからと体に悪いことをするよりも、まずは体にいいことをして、美容面は医学に頼って事後的にケアするほうがベターではないでしょうか。

また、日本の場合、ホルモン補充がどういうわけか「反則ワザ」のように見られる傾向がありなかなか普及しないのですが、性ホルモンは性別を問わず、ホルモン補充療法で外部から補充することが可能です。副作用のリスクを心配する方も少なくないでしょうが、特に更年期に特有の不定愁訴に対しては、苦痛を手っ取り早く取り除き、副作用も比較的少ない療法です。

更年期の不定愁訴などに対し、精神安定剤などを処方して対処する例もないわけではありませんが、私はおすすめしません。安定剤は依存症になりやすいし、頭がぼんやりすることもあるからです。また、70代ともなると記憶障碍の副作用が出ることも珍しくなくなります。

ホルモン補充療法に対しては、これをおこなうことで乳ガンを発症する確率が増すのではないか、というアメリカ国立衛生研究所の報告が2002年にあったのですが、その後の大規模調査では、リスクを増加させないというものが数多く出ています。2017年の日本産婦人科学会のガイドラインでも新しいタイプの補充療法はむしろ大腸ガンのリスクを40%下げるとされています。

それを考えると、QOLを重視するのであれば、ホルモン補充は効果的な療法だと私は思います。

さらに【つづき】〈日本人が知っているようで知らない、健康診断の「本当の話」…実は「意味がない数値」がほとんど〉では、多くの人が受けている健康診断であるが、実は当てにならない数値も多くあるという事実について、くわしくみていきます。

本記事の抜粋元『年代別 医学的に正しい生き方 人生の未来予測図』ではさらに、会社で出世レースから脱落したら、子どもの就職がうまくいかなかったら、親や配偶者の介護に直面したら、ガンになったら——、という不安について、どの年代で何が起きるのか解説し、 後悔しない人生を過ごすための年代別傾向と対策が書かれています。