民間の「危険ブロック塀」なぜ減らぬ? 都市型地震で浮かんだ「壁」

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大阪北部地震の影響で民家のブロック塀が崩れ、下敷きになった男性が亡くなった現場=大阪市東淀川区で2018年6月18日、平川義之撮影

 5年前、最大震度6弱の激しい揺れが大阪の都市部を襲った。死亡した6人のうち登校中の女児を含む2人は、倒壊したブロック塀の下敷きになった。危険なブロック塀の存在を国や自治体に突き付けた都市直下型地震。学校施設では撤去や改修で安全対策が進んでいるが、民間の「壁」が今も立ちはだかっている。

 大阪北部地震は2018年6月18日朝に発生した。震度6弱を記録した大阪府高槻市では、市立寿栄(じゅえい)小学校のプール脇にあったブロック塀(基礎部分を含め高さ約3・5メートル)が約40メートルにわたり道路側に倒壊。登校中だった小学4年の女児(当時9歳)が亡くなった。

大阪府高槻市立寿栄小学校のプールのブロック塀が倒れ、登校中だった4年生の女児が下敷きになって死亡した現場を調べる警察官ら=同市で2018年6月18日、久保玲撮影

大阪府高槻市立寿栄小学校のプールのブロック塀が倒れ、登校中だった4年生の女児が下敷きになって死亡した現場を調べる警察官ら=同市で2018年6月18日、久保玲撮影

 震度5強だった大阪市東淀川区でも民家のブロック塀が崩れ、偶然通りかかった近くの男性(当時80歳)が下敷きになって死亡した。

 文部科学省は地震直後、全国の小中学校や高校、幼稚園など計約5万1000校を対象に安全点検を実施した結果、全体の25%にあたる1万2652校で安全性に問題があるブロック塀が見つかった。

 危険なブロック塀の撤去は学校施設で先行して進められ、20年の文科省調査で安全対策が完了した学校は、ブロック塀が元々なかった学校も含めて全体の9割超になっている。高槻市は、寿栄小を含めて全ての市立小中学校(59校)で網目状のフェンスなどに取り換えた。

ブロック塀が撤去され、フェンスが張られた高槻市立寿栄小学校=大阪府高槻市で2019年6月9日、長尾真希子撮影

ブロック塀が撤去され、フェンスが張られた高槻市立寿栄小学校=大阪府高槻市で2019年6月9日、長尾真希子撮影

 「学校施設は何とかここまでたどりついたが、民間の建物は足踏み状態。高齢者が所有している民家が多く、やはり改修費用がネックになっている」。こう嘆くのは高槻市の担当者だ。

 住宅や事業所のブロック塀については、多くの自治体が撤去や新設の費用を補助する制度を設けている。高槻市もブロック塀を撤去する場合、1平方メートルあたり1万3000円(上限300万円)の補助で撤去や改修を後押しする仕組みを作っている。

 しかし、現実は厳しい。22年度までに延べ578件(交付総額約1億1500万円)の申請があったが、近年は頭打ちになっている。担当職員が市内を巡回する中で、危険とみられるブロック塀を約400カ所確認し、それぞれの所有者に呼び掛けているが、応じたのは数件だったという。「年金生活で撤去の自己負担分をまかなう余裕がない」などという声も多かった。

 国土交通省によると、撤去の補助を受けられる市区町村は20年に915あったが、22年は876に減少。補助制度そのものを打ち切る自治体も増えている。

 制度の廃止を決めた大阪府内のある自治体担当者は「申請があったのは数件だけで、補助金を使って撤去した場所に新たに基準外の危険な塀が建てられるという問題もあった」と打ち明けた。

ブロック塀の主な点検のポイント

ブロック塀の主な点検のポイント

 一方、国は19年の耐震改修促進法の施行令改正で、緊急車両などの通行が想定される避難路沿いのブロック塀について、所有者に耐震診断を義務付けられる制度を創設した。

 義務化は自治体の裁量に委ねられているが、避難路そのものの指定や危険なブロック塀の調査などに時間がかかり、実際に義務付けを始めたのは22年現在で大阪や東京など5都府県と22市町のみにとどまっている。

 1級建築士でブロック塀の安全対策に詳しい東北工業大の最知正芳名誉教授は「補助金の廃止など自治体が支援を打ち切ってしまえば、改修や撤去の道が閉ざされ、危険なブロック塀が放置されてしまう。行政は柔軟な支援を続けると同時に、倒壊で負傷者が出れば賠償を求められるケースなどがあることも住民に伝え、対策を促してほしい」と指摘した。【小坂春乃】

大阪北部地震

 2018年6月18日午前7時58分、大阪府北部を震源に最大震度6弱を観測。京都や兵庫など近畿の一部地域でも震度5弱以上を記録した。地震の規模を示すマグニチュードは推定で6・1。総務省消防庁によると、大阪府内で災害関連死を含めて6人が死亡したほか、4府県で62人が重傷を負った。住宅被害は全壊が21棟、半壊が483棟、一部損壊は6万1266棟に上った。都市部の通勤・通学ラッシュ帯を直撃し、交通機関が一時まひして大混乱した。