加齢で尿漏れ…「前立線肥大症」って何? 症状や原因、治療法を医師に聞く

男性に多い疾患の一つ「前立線肥大症」。症状や原因、受診のタイミングについて、腎泌尿器科の医師に聞きました。

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「前立線肥大症」とは…

 男性に多い疾患の一つに前立線肥大症があります。加齢により、前立腺が肥大し尿漏れをすることがある症状なのですが、自覚症状に乏しいケースもあります。前立線肥大症になる原因や症状、受診のタイミングについて、なかざわ腎泌尿器科クリニック(石川県野々市)の院長・中澤佑介さんに聞きました。

「男性ホルモンの働き」「生活習慣病」「食生活」が関係

Q.前立線肥大症とはどのような症状なのでしょうか。

中澤さん「まず、前立腺は男性特有の臓器で、尿道を取り囲んでいる栗の実大の腺組織です。精子を元気にする前立腺液を分泌します。そして前立腺肥大症は、その前立腺が肥大して尿道を圧迫したり、前立腺の筋肉が過剰に収縮して尿道が圧迫されたりするために、尿が出にくくなるなどの『排尿障害』を起こす疾患です」

Q.どのような原因でなるのでしょうか。

中澤さん「前立腺が肥大する原因は、はっきりとはわかっていませんが、男性ホルモンの働きや生活習慣病、食生活などが関係すると言われています。イソフラボノイドを多く含む穀物や大豆などを摂取するのが良いとされています。また、BMIが高い方は前立腺肥大するという報告があるので高脂肪食等は控えたほうがいいと思います。一般的に加齢と共に前立腺肥大症が増えてくることも明らかになっています。

Q.前立線肥大症になりやすい体形、体質、年齢などはあるのでしょうか。

中澤さん「2008年に公開されたH.ナンディーシャさんの疫学調査で肥満の方の前立腺体積が多いという報告がありました。また、80歳以上になると、8割以上の方が前立腺肥大症になると言われています」

Q.前立線肥大症の初期症状があったら教えてください。

中澤さん「1日8回以上など尿をする回数が多い、急に尿がしたくなって、我慢するのが難しい、我慢できずに尿を漏らす、夜中に何度もトイレに行く、尿が出にくい、切れが悪いなどがあります」

Q.前立線肥大症を、放置しておくとどのような影響があるのでしょうか。

中澤さん「飲酒や寒冷刺激などによる自律神経の作用により、尿が膀胱から出せなくなる状態『尿閉』になることがあります。

前立腺肥大症を放置していると、排尿時、膀胱に圧がかかる高圧排尿の状態になります。長期的に膀胱に負担をかけることにより膀胱機能が低下することもあります。どちらも、尿路を隔離するために膀胱留置カテーテル(尿の管)を留置することが必要になる場合があります」

Q.前立線肥大症はどのように発見できるのですか。また、どのようなタイミングで前立線肥大症を疑い、初受診をすれば良いのでしょうか?

中澤さん「排尿症状がある際に医療機関を受診されると見つかることが多いです。また、住民健診の前立腺がん検診などで来られる方も前立腺肥大症を有していることが多いです」

Q.前立線肥大症の治療法を教えてください。

中澤さん「前立腺肥大症の治療は、薬物療法と手術療法に分かれます。薬物療法は、尿の流れを改善させる薬や前立腺と膀胱の血流を改善させる薬、前立腺のサイズを縮小させる薬があります。しかし、薬物療法だけでは効果が期待できない場合もあります。

手術療法は多岐にわたります。従来は経尿道的前立腺切除術(TUR-P)と開腹手術が主流でした。TUR-Pとは、内視鏡と電気メスを使用する手術法です。内視鏡を尿道から前立腺に挿入し、先端の電気メスで肥大した腺腫(内腺)を少しずつ削り、その切片を回収します。

肥大が大きくなりすぎて『TUR-Pでの治療は困難』と判断された巨大な前立腺には開腹手術が選択されていました。開腹手術では、下腹部をメスで切開し、肥大した腺腫をくり抜きます。

近年では、巨大な前立腺に対してホルミウムレーザー前立腺核出術(HoLEP)が選択されることが多いです。HoLEPは、内視鏡手術の一つで『ホルミウム・ヤグレーザー』を用いて外科的被膜と腺腫の間を、みかんの実と皮をはがすように剥離します。完全に剥がれた腺腫を膀胱の中に落とし、回収します。

2022年度には、経尿道的前立腺吊り上げ術=UroLift(ウロリフト)とResume(レジューム)を用いた水蒸気治療(WAVE治療)が保険収載されました。日本泌尿器科学会の経尿道的水蒸気治療に関する適正使用指針により、高齢の方、合併症が多い方など、どちらの治療も従来の手術療法(TUR-P、HoLEP、グリーンライトレーザーを照射して腫大した前立腺を蒸散させる手術方法『経尿道的光選択的前立腺レーザー蒸散術(PVP)』など)が困難な症例が適応になります。

UroLiftは閉塞した尿道にインプラントを留置し再拡大することにより閉塞を解除する治療になります。WAVE治療は高温の水蒸気を用いて前立腺の組織壊死を起こし、肥大した前立腺組織が退縮して尿道の圧迫を軽減する治療です。治療選択は多岐にわたるため『排尿障害』がある方は泌尿器科を早く受診するよう勧めます」

(オトナンサー編集部)