親の死後、実家相続の際に「名義変更」は必須?…もし行わなかった場合に“潜むリスク”は【司法書士が解説】


寺島 能史

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画像:PIXTA

親の死後、実家をどうするかという問題は多くの家庭で起こり得ます。本連載は、司法書士法人みどり法務事務所が運営するコラム『スマそう−相続登記−』から一部編集してお届け。本稿では、実家の名義変更のやり方や手続きの基本的な流れ、注意点について解説します。

生前贈与や相続で名義変更の手続きが必要な場合

財産を子や孫の世代に引き継ぐ手段としては「相続」、「生前贈与」が主です。

これらにより不動産の所有権が移転した場合、不動産の名義変更は必須ではありませんが、名義を変更しておかないと、第三者に権利を主張できない、後になって不動産の処分をする際に売却ができない等の不都合が生じます。そのため、不動産の所有権が移転した場合は法務局にて名義変更の手続きを行うのが通常です。

以下、生前贈与または相続を行った場合の名義変更の手続きについて説明していきます。

生前贈与で実家を取得するときの手続き方法

不動産の名義変更の手続きでは、所有権が移転したことが分かる書類が、贈与であれば、贈与契約書などの贈与が成立したことが分かる書類が必要です。本項では、贈与が行われた際の一般的な必要書類を説明します。

必要書類を揃える

◯贈与者側が揃える書類等

・不動産の登記識別情報(登記済権利証)

・発行から3ヵ月以内の印鑑証明書

・不動産の固定資産税評価証明書

・実印

◯受贈者側(不動産を貰う側)が揃える書類等

・住民票

・印鑑(実印でなくてもいい)

贈与契約書を作成する

贈与契約書には決まった形式はありませんが、最低限「どの不動産について」、「いつ」、「誰が」、「誰に」不動産を贈与したかが分かる記載が必要です。これらの必要事項を記載したのち、贈与者と受贈者が署名捺印を行います。

登記申請書を作成する

不動産の名義変更の際には、所有権が移転した原因等を記載した登記申請書が必要です。登記申請書のひな形は、以下の法務局のHPに載っているのでそれを参考にしましょう。

法務局:

管轄のご案内:法務局

なお、申請の際には登録免許税を一緒に納める必要がありますが、詳しくは後の項目で詳述します。

親の死後、実家を相続するときの手続き方法

不動産を相続した場合は、相続があったことが分かる書類が必要となります。

必要書類を揃える

①一般的に必要な書類

・被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本及び除籍謄本

・被相続人の出生から住民票除票又は本籍地が記載された戸籍の附票

・法定相続人全員の戸籍謄本

・不動産を取得する相続人の住民票

・固定資産税評価証明書

・相続関係説明図

②遺産分割協議をした場合に必要な書類

遺産分割協議をした場合は、上記の①に加え、以下の書類が必要になります。

・遺産分割協議書

・法定相続人の印鑑証明書

③遺言書に従って登記をする場合

被相続人の遺言書に従って登記をする場合は、上記の②の代わりに「遺言書」が必要になります。なお、遺言書が存在する場合、中身の確認の前に家庭裁判所に提出し、遺言書の偽造防止等を行うための検認という手続きが必要です。

登記申請書を作成し法務局に提出する

贈与の場合と同様に、必要書類がそろったら登記申請書を作成し、不動産を管轄する法務局に名義変更を申請します。

実家の名義変更でかかる税金の種類と計算方法

不動産を取得した場合、原因が生前贈与か相続のどちらにせよ税金がかかります。また、不動産の名義変更を申請する際には登録免許税が必要で、所有権移転の原因によりその税額が異なります。

なお、これら税金はケースによって減税措置が受けられる場合があるため、詳しくは税理士、税務署に確認しましょう。

贈与税

贈与税は、2つの式で求められます。

①課税価格=1月1日から12月31日までの贈与された総額―110万円

②税額=課税価格×税率―控除額

例えば、2,000万円の土地を贈与された場合は

 2,000万円-110万円=1,890万円

この1,890万円が課税価格となり、この課税価格に税率をかけ、そこから控除額を差し引いた額を贈与税として納めることになります。

税率に関しては、以下の国税庁のHPに載っています。

国税庁:

No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)|国税庁
相続税

相続税は、2つの式で求められます。

①基礎控除額=3,000万円+600万円×法定相続人の数

②税額=(相続税評価額―基礎控除額)×税率―控除額

例えば、法定相続人二人のケースで5000万円の財産を相続した場合

  5,000万円―(3,000万円+600万円×2)=800万円

この800万円に税率をかけ、そこから控除額を差し引いた額を相続税として納めることになります。

税率は、以下の国税庁のHPに載っています。

国税庁:

No.4155 相続税の税率|国税庁
不動産取得税

不動産取得税は、有償・無償に関わらず、不動産を取得した場合に課される税金で、以下の式で求められます。

取得した不動産の価格×税率

なお、令和6年3月31日までに宅地及び宅地評価された土地を取得した場合には、その土地の価格は1/2として評価されます。

税率は、以下の東京都主税局のHPに載っています。

東京都主税局:

不動産取得税 | 税金の種類 | 東京都主税局
登録免許税

登記を申請する際は、登録免許税が発生します。不動産の場合は、「不動産の価格×税率」で求められるのですが、税率は不動産を取得した原因によって異なります。

 相続の場合:不動産の価格×0.4%

 贈与の場合:不動産の価格×2.0%

例えば、2,000万円の土地について所有権の移転登記を申請するケースでは

相続の場合

  2,000万円×0.4%=8万円

贈与の場合

  2,000万円×2.0%=40万円

が登録免許税となります。

不動産の登記をしないとどうなる? 費用をかけてでも司法書士に依頼すべき?

不動産を相続または贈与によって取得した場合、名義変更を行うのが通常です。それでは、不動産の名義変更を行わないと、どのような不都合が生じるのでしょうか。本項では、それについて説明していきます。

次の相続が起きると権利関係・手続きが複雑になる

相続登記をしないまま放置すると、その間に不動産の現所有者が死亡して次の相続が発生し、相続関係、相続手続きは複雑となります。

例えば、祖父→母→自分へと不動産を相続したケースで、不動産の名義が祖父のままだと、遺産分割協議は祖父の相続人と母の相続人を含めて行う必要があり、相続人調査は煩雑となるばかりか、相続人の数が多いため相続人同士がもめてしまい、遺産分割協議がまとまらないおそれが出てきます。

また、不動産の名義人の代が古いと、現代とは戸籍の見方が異なるため、必要書類を収集するのは慣れていない人にとって非常に困難となり、司法書士等の専門家に依頼せざるを得なくなります。

不動産の売却・抵当権の設定ができない

不動産登記は、不動産の権利関係を公示する制度であるため、原則として、途中の権利移動を省いた登記は認められません。

例えば、父から不動産を相続したため、その不動産を売却しようと思っても、不動産の名義が父のままだと、父から買主名義にすることはできず、自身に相続登記をしてから買主の名義にする必要があります。

そのため、相続不動産を売却・担保にする予定がある場合、相続登記をしておかないと、相手方に損害を与えかねません。

不動産が差し押さえられる場合がある

民法上、不動産を取得しても、登記をしておかなければその権利を第三者に対抗(権利の主張)することができません。

例えば、相続人がAとBの二人のケースで、遺産分割協議によりAが単独で不動産を相続し、それを登記しないままでいると、Bの債権者が、Bの法定相続分の限度で不動産を差し押さえたとしても、AはBの債権者に対し、遺産分割協議によりAが不動産をすべて相続したことを主張できません。

※不動産が相続された場合、遺産分割協議をするまで所有権は相続人同士の共有状態になる

法改正により過料に処せられる恐れがある

これまで相続登記は義務ではありませんでしたが、所有者不明土地による土地事業の阻害や近隣土地への悪影響の対策として法改正が行われ、令和6(2024)年4月1日以降は相続登記の申請が義務となりました。

その法改正の内容を簡潔に言うと、令和6(2024)年4月1日以降、相続があったことを知った日から3年以内に相続の登記をしなければなりません。また、令和6(2024)年4月1日より前に相続があった場合でも、同日より3年以内に相続の登記をする必要があります。

そして、この相続登記の申請義務を、正当な理由(注1)なく怠ると10万円以下の過料に処すこととすると定められました。

注1:正当な理由があると考えられるのは次のようなケースです。

・数次相続が発生して、相続人調査や必要書類の収集に多くの時間を要する

・遺言の有効性や遺産の範囲等が争われている

・申請義務を負う相続人自身に重病等の事情がある

まとめ

以上が、不動産の名義変更の手続きについてです。現状、不動産の名義変更は必須ではありませんが、上述した通り、不動産の名義変更をしない場合は不都合が生じるので、不動産を取得した場合はすぐに名義変更の手続きを行うべきです。

ただ、名義変更の手続きは、慣れていない方にとっては難しく思うかもしれません。本記事を参照し、自身で手続きを進めるのが無理そうと感じたのであれば、専門家に相談することをおすすめします。