財津和夫 チューリップ50周年。学生運動が盛んな生々しい時代、現実から逃げるために「魔法の黄色い靴」を書いた(前編)

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デビュー50周年を迎えたチューリップの財津和夫さん(写真提供◎財津さん)

2022年、デビュー50周年を迎えたチューリップ。昭和の青春を彩ったヒット曲「心の旅」「サボテンの花」「虹とスニーカーの頃」をはじめ、ほとんどの曲の作詞・作曲を手がけたのが、バンドの中心的存在である財津和夫さんである。バンドは1989年に解散したが、97年以降、度々再結成ツアーを行い、現在は2022年春から始まった「デビュー50周年記念ツアー“ the TULIP ”」の真っ最中。財津さんに今の心境などをうかがった。
(聞き手・構成 梶山寿子)

50周年ツアーを再開

――数ヵ月のお休みをはさんで、50周年ツアーが今春、再開しました。長期にわたるツアーとなりましたが、ご体調はいかがですか。

いちばん暑い時期と寒い時期を避けて、ゆるやかにスケジュールを組んでもらっているので、なんとか大丈夫です。メンバー4人のうち、3人が70歳以上。最年長の僕は75歳の後期高齢者というジジイバンドですが、年寄りの割にはエネルギーが出ているんじゃないかと(笑)。もう、あまり体力はないのですが、最後のツアーということもあって、一所懸命がんばっています。燃え尽きる前のろうそくの炎のようなものですよ。

――「灯滅せんとして光を増す」ですか。でも、燃え尽きるなんてとんでもない。ステージを拝見しましたが、演奏も歌声も力強くて……。しかも、ノリノリの曲ばかりでしたね。

50周年というお祭りのようなコンサートなので、盛り上がるアップテンポの曲を中心に選びました。どれもファンのみなさんがよく知っている曲ばかり。昨年のツアーとは少しだけ曲を入れ替えましたが、しっとりしたバラードは「青春の影」だけです。あの曲は、コンサートでは必ず演奏していますからね。

――「青春の影」のイントロが始まった瞬間に、会場全体が息をのんで、「待ってました!」という雰囲気になります。感極まって、泣いている方も多いです。

1974年にシングルとして発売したときはそれほど売れなかったし、まさかこんなに長く歌うことになるとは……。スタンダードナンバーのようになればいいなあと思っていましたが、なぜこの曲がこんなにも支持されるのか、つくった僕にも実はよくわからないんです。

うまい力の抜き方

――「サボテンの花」をはじめ、この50周年ツアーでは選曲されなかった名曲、代表曲もたくさんあります。ちょっと残念に思っているファンも多いのではないですか。

しっとりした曲はごまかしがきかないので、やらないことにしたんですよ(笑)。僕の体力のこともあるし、なるべく姫野(達也)君が歌う曲を多くしようと……。ほら、「サボテンの花」だと、僕が歌わなきゃいけないし。それは冗談としても、あの曲をメンバーと一緒にやることに、客席のみなさんもあまり馴染みがないのでは? チューリップとして出したときはあまり売れなくて、僕がソロになってから、ドラマ主題歌としてヒットしましたからね。

――確かに今回は、姫野さんがメインボーカルを務める曲が多かったですね。それにしても、15分の休憩をはさんで3時間近いライブをこなしておられるのは、ほんとうにすごいです。

気力は十分なんですよ。とはいえ、気力と体力は両輪なので、気力を出しすぎると体力が落ちてしまう。だから、がんばりすぎないというか、できるだけ負担のないように……。50年以上やっているので、そのあたりのさじ加減は心得ています。

最近はストレスに負けちゃいますからね。ストレスがかかっているのを自覚すると、闘う力がなくなってくる。若い時はストレスを感じるような出来事があっても、「ちくしょう!!」と自分を奮い立たせていたのですが……。まあ、九州から出てきた田舎者でしたからね。都会人にバカにされないようにがんばらなきゃと無理をしていたし、とんがっていた。だから、かなり疲れましたよ。

最近は、人生のゴールも近づいてきたし、もう力を抜いてもいいんだと考えられるようになりました。うまい力の抜き方がわかってきたのかもしれません。ランナーがゴール直前にちょっと力を抜くような感覚かな。それに、パフォーマンスに力が入りすぎていると、見ている側も気持ち良くなれないんですよ。客席の皆さんの心地良さも考えて、できるだけリラックスした状態に見えるよう、適度に力を抜くようにしています。もっとも、それで失敗することもあるんですけどね。

今のコンサートは、大人の味わい

――長年のファンの皆さんは、“バンドの長男”としての責任など、重圧と闘っていた“あの頃の財津さん”も知っています。そう考えると、感慨深いですね。

若い頃からコンサートに来てもらって、同じ時間を過ごしてきたわけでしょう。今日初めて出会った相手(観客)じゃないわけですよ。ここまでつきあってきてくれたんだなぁと思うと、なんだか胸が詰まりますね。これまで人生を生きてきて、みなさんにもそれぞれにつらいこと、苦しいことがたくさんあったはず。でも、僕らの歌を聴いて、それを一瞬でも忘れられたらいいし、コンサートの時間だけでも青春時代に戻ってもらえたらと。昔のような黄色い歓声はなくなったけど(笑)、それがまたいいんですよ。なんというか、今のコンサートは、熟成されたモルトウイスキーのような大人の味わいです。

若い頃の財津さん(写真提供◎財津さん)

――客席に男性ファンの姿が目立つことも、昔との違いですね。男性からの声援に、ステージ上の財津さんがとてもうれしそうに応えておられたのも印象的でした。

男性が来てくださるのは、ほんとうにうれしいんですよ。若い頃は恥ずかしくて「チューリップのファンだと公言できなかった」という方々が、最近になって、コンサートに足を運んでくださる。そんなことを含めて、今は、ただ、ただ、感謝しかないし、僕自身、今のほうが自由に楽しめています。

そもそも、デビューから50年以上経ったバンドがコンサートツアーをやれること自体、不思議というか、夢のような話じゃないですか。だから、コンサートをやるたびに、「みなさんが来てくださるから、コンサートを開くことができます。みなさんのおかげです」と、客席に向かってお礼を言っています。

チューリップ最後のコンサートはマスクなしで

――声援といえば、今年のツアーから声出しが可能になりました。まだマスクはしたままですが、発声禁止だった昨年のコンサートとは、やはり雰囲気が変わりましたね。

コロナ禍でのコンサートはつらかったですね。僕らのコンサートでは、アンコールで客席と一緒に歌うことをずっと続けてきたのに、それもできない。仕方がないから、客席のみなさんの手拍子に合わせて、メンバー全員で歌っていました。

いつのまにか、そんな状況にも慣れてしまっていたのですが、ようやく、声出しも、「心の旅」や「魔法の黄色い靴」の大合唱もできるようになった。マスク越しでも、みなさんの声は僕らにしっかり届いています。客席のみなさんも歌う楽しさを感じてくださっている様子で……。コンサートは一方通行のものではないと、今更ながら気づかされました。

――「魔法の黄色い靴」はファンのみなさんにとっても特別な一曲ですね。歌にある魔法の靴とは、青春時代に戻ることができる“魔法の靴”だったのかもしれません。

なるほど、言われてみれば……。発売当時、あの曲は「メルヘンすぎて売れない」って言われたんですよ。あの曲をつくったのは、学生運動が盛んな生々しい時代でした。僕自身、そんな現実から逃げるために「魔法の黄色い靴」を書いたのかもしれません。でも、当時の社会や世相を反映した曲ではなく、メルヘンっぽい歌だから、今も気持ち良く歌えるのでしょう。青春時代に戻ったかのような気分になるのにふさわしい曲だと思います。

ですが、まだ完全な形ではありません。マスクを着けたままだと、歌っているお客さんももどかしいんじゃないですか? かつてのように、みんなで思い切り大きな声で歌ってツアーを終わりたいという願望があるんです。

――チューリップ最後のコンサートは、マスクをはずして盛り上がりたい?

はい。客席もマスクなしで歌える日が来るまでがんばれるといいな……そんな夢を見ております。ありがたいことに、みなさんが「今年で最後と言わず、もっとやって!」と言ってくださるし。

――そうなると55周年のツアーを期待してしまいます。

いや、いや、だからといって、全国を回る55周年ツアーは体力的に絶対に無理ですよ! たとえば、メンバーがアコースティックギターを片手に弾き語りをしながら、共に再会を喜び合う同窓会のような集まりなら、できるかもしれませんけど。