中国軍へ技術流出の恐れ、東工大らが留学生受け入れる中国「国防七校」の危険性

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写真はイメージです Photo:PIXTA

中国軍の兵器開発に関わる「国防七校」の危険性

 6月2日、政府が閣議決定した答弁書により、2020年度の時点で、中国人民解放軍の兵器開発などと関係が深いとされる中国の「国防七校」のうち、6校から計39人が日本の大学に留学していたことがわかった。

 答弁書によると、文部科学省の調査で「徳島大、東北大、千葉大、高知大、新潟大、名古屋大、会津大、東京工業大、京都情報大学院大、福岡工業大」の計10大学が留学生を受け入れていたという。受け入れ状況は表の通りだ。

図表:留学生受け入れ状況

 そもそも国防七校とはどのような大学なのか。

 国防七校とは、中国の最高国家権力機関の執行機関である国務院に属する国防科技工業局によって直接管理されている大学であり、中国人民解放軍と軍事技術開発に関する契約を締結し、先端兵器などの開発などを一部行っている。

 前衆議院議員の長尾敬氏によれば、ハルビン工業大学の国防関連の研究費は年間約390億円で、これはオーストラリアの国防省の科学技術予算に匹敵する額だという。

 さらに、国防七校の卒業生の30%弱である1万人以上が、中国の防衛研究部門に就職し、それ以外でも軍艦、軍備、軍用電子機器を専門とする複合企業、つまり華為技術(ファーウェイ)や中興通訊(ZTE)といった企業に就職していると指摘する。

 上記を確認するだけでも、中国人民解放軍と強いつながりが見て取れる上に、中国には国家情報法という国家への情報提供義務を定めた非常に危険な法がある。

 日本においても、経済産業省は、大量破壊兵器や通常兵器の開発に利用される恐れのある技術が外国に輸出されるのを規制するために「キャッチオール規制」を導入。その実効性を高めるため、外国ユーザーリストに掲載し、輸出者に対して、大量破壊兵器の開発などの懸念が払拭されない外国・地域所在団体の情報を提供している。

 その外国ユーザーリストに国防七校の一部が含まれており、経済産業省としてもその危険性は認識している。また、同盟国である米国も、国防七校の一部を禁輸リストに加えるなど、その危険性に異論はないだろう。

 実際、国防七校が関与する過去の技術流出事例は多くある。

 一般財団法人安全保障貿易情報センター(CISTEC)輸出管理アドバイザー(当時)森本正崇氏の「対中技術流出事案の分析」によると、HEU(後のハルビン工程大学)の研究室長であったA氏は、2002年から2014年にかけて、ハルビン工程大学の教授などの指示に基づき、無人潜水艇や、遠隔操作無人探査機、自律型無人潜水艇といった潜水艇のシステムや構成品を、HEUや他の政府機関のために、米国企業などから購入し、中国に送付していた。

 A氏は、HEUの教授X氏や准教授らからの発注に基づき、米国、カナダ、欧州の企業から物品を購入し、HEUや人民解放軍海軍などの潜水艇開発のために、X氏らに輸出した。その際、A氏は経営するIFour International, Inc.をフロント企業とし、同社名義で調達活動をしていたという。

 その他、2018年6月、米国検察当局は、対潜水艦戦闘に使用可能なハイドロフォン(水中聴音機)を入手するために共謀したとして、中国の西北工業大学を米国輸出法違反で起訴している。

 また、同大と共謀し、マサチューセッツ州在住の中国人および同人が率いる海洋関連機器の輸入会社(中国・青島市)が、2015年~16年にハイドロフォン78個を商務省の許可を得ずに同大に輸出したという。

 このように、単に留学生や研究室の人間が関与するだけではなく、国防七校の大学自体が主体となって、関与し、さらにフロント企業やビジネスマンを駆使して巧みに技術窃取を行っている。

国防七校とさまざまな提携をする日本の大学

 2021年8月時点で読売新聞が確認したところ、国防七校には日本人研究者が8人所属しており、そのうち、ミサイル開発などを行う北京航空航天大に4人の日本人が所属していたという。

 そして、国防七校との関連は確認されていないが、日本の大学・研究機関を通じた技術流出事案として、朝日新聞が2021年12月12日に以下の事例を報じている。

「朝日新聞が入手した同資料によれば、日本の国立大学や国立研究開発法人に助教授や研究員などの肩書で所属していた中国人研究者9人は、ジェットエンジンや機体の設計、耐熱材料、実験装置などを研究。(中略)このうち流体力学実験分野の中国人研究者は、1990年代に5年間、日本の国立大学に在籍。帰国後、軍需関連企業傘下の研究機関で、2017年に極超音速環境を再現できる風洞実験装置を開発。2010年代に日本の国立大学にいた他の研究者も帰国後に国防関連の技術研究で知られる大学に在籍するなど、9人は帰国後、研究機関などに所属したという」

 先に述べたように、実際、日本の大学で優秀な研究・成績を収め、その知見・ノウハウを持ってファーウェイなどの人民解放軍に強いつながりを持つ企業に就職する例も非常に多い。

 また、オーストラリアのシンクタンクが指摘しているように、中国人民解放軍関係者がその目的を秘して留学生の身分で日本の大学や研究所に入り込んでいる可能性は、海外での実例を見ても排除できない。さらに、善意の人間(留学生)が後に人民解放軍などの関係者に接触されて支配下に入るような事例が相当数確認されているなど、そのスキームは複雑となっている。

 中国の「千人計画」もその手法として知られるところだ。

 千人計画とは、1990年代に始まった海外の中国人留学生を呼び戻して先端技術を中国国内に取り込む「海亀政策」に倣い、優秀な外国人研究者を巨額の研究費や報酬、地位を与えて中国に誘致し、そのノウハウ・研究成果を「メード・イン・チャイナ」としてしまうもので、同計画には複数の日本人の参加も確認されている。

 また、中国プロバガンダ・スパイ工作の一助となっていると指摘されている孔子学院を学内に設置する日本の大学(早稲田大、立命館大、桜美林大、武蔵野大、愛知大、関西外国語大、大阪産業大、岡山商科大、北陸大、福山大、山梨学院大、立命館アジア太平洋大、札幌大)があることにも留意しなければならない。

 そのような状況下で、国防七校は以下の大学とさまざまな提携を行っている。

図表:国防七校とさまざまな提携をする日本の大学

留学生の研究内容を把握していない日本政府の危機感の薄さ

 日本では、外為法が改正され、大量破壊兵器開発につながる技術を日本国内の外国人に渡す行為を「みなし輸出」として規制して経済産業省の許可制としている。だが、その対象は、外国政府や機関との雇用関係にある者や、外国政府から奨学金を受け取るなど「実質的な支配下にある」と認められる者などに限定されている状況だ。

 例えば、中国からの国費留学生は上記に当てはまる場合もあるが、私費で入学し、後に人民解放軍などが学生組織を通じて接触し、技術窃取の指示を出した場合、対応できるだろうか。

 これまで解説したように、中国による大学・研究機関に対する技術窃取の手法は、そのスキームが複雑かつ見えづらいものが多く、大学や研究機関側で実効性のある対応を行うには限界があるだろう。

 にもかかわらず、冒頭で触れた政府答弁書では、留学生の研究内容を把握していないと回答しており、政府の危機感のなさは明白だ。

 国防七校に限らず、日本の大学・研究機関が危険な状況にさらされる中、国がより明確な指針と基準を示し、大学や研究機関と文部科学省、そして経済産業省や警察庁、防衛省、各公安部門などとより強力に連携していくことが重要であり、必要に応じて摘発できる体制・法整備が必要である。

 孔子学院の問題と同様、社会において日本の大学・研究領域に浸潤する中国の危険性が認識され、日本の対策がより強固となることを期待したい。

(日本カウンターインテリジェンス協会代表理事 稲村 悠)