手取り月17万円、44歳・非正規「死ぬまで労働」確定か…長生きが怖くなる“年金受給額”に「国が悪い」と恨み節【FPの助言】

人口が多く高校大学は受験戦争、就職時は不景気で就職難民……「谷間の世代」とすら揶揄される就職氷河期世代。44歳のNさんも、こうした時代の煽りを受け、非正規で生計を立てています。Nさんはこのまま“死ぬまで”働かなければならないのでしょうか。株式会社FAMORE代表取締役の武田拓也氏が、Nさんの厳しい現状を解説するとともに、将来の資産形成について助言します。

image

Nさんは「時代が悪い」「国が悪い」というが…

44歳の独身のNさんは非正規社員として働いています。手取りが17万円であることを「時代が悪い」「国のエラいやつらはなにをしているんだ」と他人のせいにしがちです。

Nさんのいとこが筆者と知り合いで、Nさんを見かねたそのいとこが筆者のもとへ連れて来ました。

Nさんは国民年金の加入のみ。いたってまじめな印象のNさんですが、話を聞いていくと仕事を選り好みし、正社員登用があるからと面接に臨んだ企業は大企業ばかりでした。何社か応募はするものの、これまで採用にはいたっていません。

あまりにもシビア…正社員と非正規社員の給与の差、年金の差

雇用形態別の賃金についての数字をみると、まず男性は、正社員35万3,000円に対し、非正規社員は24万7,000円です。次に女性は、正社員27万6,000円に対し、非正規社員は19万8,000円となっています。

雇用形態間の賃金格差は正社員を100とすると、男女計71.0(男性70.0、女性72.0)となります。

Nさんの属する40代男性の賃金は、正社員で38万3,000円非正規社員は24万2,000円です。賃金格差は正社員100に対して63.2と全体の平均値よりも格差は大きくなっています。

出典:厚生労働省「令和4年賃金構造基本統計調査」より

正社員に比べて非正規社員は給料が3割も少ない状態ですが、厚生年金に加入している正社員と国民年金のみに加入している非正規社員では、老後の年金受給額にも大きな差があります。

令和3年度末における年金受給者の平均年金月額をみると、老後にもらう老齢年金では、厚生年金保険が14 万6千円に対して、国民年金が5万6千円です。その差はおよそ9万円となります。厚生年金受給者の平均年金月額を100とした場合、国民年金の平均年金月額は38.3と半分以下です。年金月額の差9万円は、20年で2,160万円の差となります。

出典:厚生労働省「公的年金総括」より

正社員になりたいと思いつつも、選り好みがやめられず結局非正規社員として働くNさん。このままでは老後の生活が不安で仕方がないのですが、どうすればよいかわからないまま時間ばかりが過ぎていきます。Nさんはどうすればよいのでしょうか?

「国が悪い」と嘆く前に…「国が用意した」制度を活用

現在、Nさんは老後に向けた備えができていない状態です。特に贅沢をしているわけでもありませんが、都市部で賃貸に住んでいて家賃も高く生活費に余裕はありません。家計の見直しにより節約をするとしても限界があります。

幸い、Nさんには実家があり、両親も健在です。当初は地方の実家へ戻りたくないと渋られていましたが、背に腹はかえられません。実家に戻れば家賃や水道光熱費などの負担が軽減できるので収入から貯蓄へまわせるお金が増えます。

実家の周辺では働き手が不足しており、地方自治体の支援もあり手取りは変わらず正社員の職に就くことができそうです。

正社員になれば厚生年金に加入できるのでNさんの年金受給額も増えることになります。ただ、年金だけではやはり不安なので、「いまさら遅いのでは?」と迷っていましたが、【iDeCo】と【NISA】をお勧めしました。

少額ずつではありますが、44歳のNさんが老後を迎えるまでにはまだ10年以上あります。実家へ戻ったことによって浮いたお金は老後のために積み立てていただくことにしました。

「余ったお金をすべて老後のために積み立てるのは、なにかあったときに不安です」というNさん。確かに、すべての資金をiDeCoで積み立てると途中で解約できないため心配ですが、NISAであれば、なにか不測の事態が発生した場合、いつでも解約することができます。

これで老後の資金に少しゆとりをもてますが、将来に向けて積み立てをするだけでは現役のあいだに楽しみがないので、ふるさと納税をお勧めしました。

ふるさと納税は、自治体へ寄付することによって実質2,000円の負担で果物やお肉、お酒といったその土地の特産品などを返礼品として受け取ることができます。

自分のお金を応援したい自治体や事業を選んで寄付できるので、Nさんは「ふるさと納税の返礼品を両親と一緒に楽しみたい」と嬉しそうに手続きをしていました。

現状のままではいけないとは思いつつも「なにをすればいいかわからないまま日々をなんとなく過ごしている」という人は、Nさんだけではないと思います。まずは情報収集をしてみて、できそうなことからはじめてみましょう。

「自分では判断が難しい」と感じた場合にはひとりで悩まず、身近な人やお金の専門家であるファイナンシャルプランナーに相談してみるのもよいでしょう。

武田 拓也

株式会社FAMORE

代表取締役