ついに日本経済大復活のチャンス到来…世界の半導体大手が生産拠点を続々と日本に移す本当の狙い逃してはならない好機が訪れている

TSMC、サムスンに続きウエスタン・デジタルも

最近、世界の有力半導体メーカーが、わが国に大規模な工場を建設するケースが増えている。世界最大のファウンドリである台湾積体電路製造(TSMC)や、DRAMなどのトップ企業である韓国のサムスン電子、米国のウエスタン・デジタルなどがその例だ。

image

写真=時事通信フォト

半導体受託製造の世界最大手、TSMC(台湾積体電路製造)本社で記念撮影に応じる、熊本市の大西一史市長(前列右から2人目)、熊本県の蒲島郁夫知事(同3人目)、廖永豪TSMC副社長兼JASМ会長(同4人目)ら=2023年1月12日、台湾・新竹[熊本県提供]

こうした有力半導体メーカーが、わが国にやってくる背景にはいくつかの要因がある。まず、台湾問題の地政学リスクは重要だろう。戦略物資として重要性が高まる、半導体の安定供給体制を確立するため、台湾や韓国からわが国に生産拠点を急速にシフトしている。

また、わが国の超高純度の半導体部材や精密な半導体製造、検査装置メーカーの国際競争力も高い。有力メーカーにとって、原材料や部材を入手しやすい環境は有利だ。さらに、メーカーにとって、トヨタ自動車などの重要顧客が近くに位置することも見逃せない。

今後、わが国企業はこのチャンスを生かして、人材の育成、研究開発体制の強化を徹底し、世界から求められる素材や装置の供給力を引き上げることが必要だ。それができないと、有力メーカーの進出は一時的な現象で終わってしまう。日本経済にとっても、逃してはならない好機だ。

日韓関係の修復でサムスンは対日投資を積み増し

近年、台湾、韓国、米国の大手半導体メーカーが、わが国への投資を積み増している。2022年4月、熊本県で“ジャパン・アドバンスト・セミコンダクター・マニュファクチャリング(JASM)”が工場の建設に着手した。JASMは台湾のTSMCが株式の過半を所有し、経済産業省が工場建設を支援する。ソニーとデンソーもJASMに出資している。

2023年2月には熊本県などを念頭にTSMCが追加で工場の建設を検討しているとも報じられた。回路線幅5~10ナノメートル(ナノは10億分の1)など先端レベルのチップ生産も検討されているようだ。

TSMCを追いかけるように、韓国のサムスン電子もわが国での事業運営体制を強化しようとしている。5月14日、横浜市に韓国のサムスン電子は半導体の試作ラインを構築すると報じられた。鶴見区にある研究所に半導体の拠点を設け、2025年からの稼働が目指されているという。日韓の関係修復に歩調を合わせて、サムスン電子は対日投資を積み増そうとしているようだ。

ウエスタン・デジタル、インテルも続々

4月下旬、経済産業省は韓国の産業通商資源省と政策対話の場を持った。わが国は輸出優遇措置の対象である“グループA(旧ホワイト国)”に韓国を再度指定することを念頭に、韓国の貿易管理体制などを確認した。5月7日、ソウルで開催された日韓首脳会合にて両国は、韓国の半導体メーカーとわが国の半導体関連部材、半導体の製造、検査装置企業との連携を強化して供給網を強化することにも合意した。

米国企業も、わが国での事業運営体制を強化しようとしている。5月15日、米ウエスタン・デジタルは東芝の持分法適用会社であるキオクシアホールディングスとの合併協議を加速し、フラッシュメモリ事業の統合を目指すと報じられた。同日、ウエスタン・デジタルの株価は前営業日から11.26%上昇して引けた。2016年頃に回路線幅10ナノメートルの製造ライン立ち上げに行き詰まったインテルも、わが国への投資強化を検討しているという。

半導体有力メーカーが日本を目指す4つの理由

半導体大手企業による、対日直接投資積み増しの背景にはいくつかの要因がある。大きく4つの要素を考えると分かりやすい。まず、地政学リスクの高まりだ。支配体制の強化を目指す中国の習近平政権は、台湾への圧力を強めている。米軍関係者の間では台湾海峡で有事が発生するとの警戒感も高まっている。

台湾企業にとって、米国との関係を基礎に安全保障体制を強化するわが国は、地政学リスクの高まりから離れ、安定した事業運営体制を確立するために重要性が高まっている。朝鮮半島では、固体燃料エンジンを搭載した新型の大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射実験を行うなど北朝鮮の軍事的挑発が増している。サムスン電子にとっても安定した研究開発体制の整備は急務だ。

2つ目は、わが国の半導体部材、製造、検査装置は世界的に競争力が高いことだ。例えば、わが国の企業は、“イレブン・ナイン(99.999999999%)”と呼ばれる、超高純度のフッ化水素を製造する技術を持つ。フォトレジスト(感光材)、基盤であるシリコンウエハなどの半導体部材の供給でもわが国企業の比較優位性は高い。

トヨタ、ソニー、任天堂など大手顧客が多い

超高純度の半導体部材を繊細に調合して回路を形成し、基板から切り出し、ケースに封入する装置などに関しても、本邦企業は強みを持つ。世界の半導体大手企業が次世代のチップ製造体制を競合他社に先駆けて確立するために、わが国の超高純度、微細なモノづくりの力の重用性は高まっている。

半導体ウェーハ

写真=iStock.com/SweetBunFactory

3つ目は、わが国には半導体大手メーカーの顧客企業が多いことだ。2022年まで3年連続でトヨタ自動車の新車販売台数は世界トップだった。電動化などを背景に自動車に用いられる半導体点数は急増している。ソニーのカメラや任天堂のゲーム機などもより多くのチップが用いられるようになった。

4つ目は、わが国政府が半導体分野での補助金を支給することである。2022年6月に政府は、TSMCなどによる工場建設に4760億円を上限に助成を行うと発表した。同年9月、政府は米マイクロンにも支援を行った。横浜におけるサムスン電子の拠点開設にも支援が行われるようだ。

地元の九州FGは純利益48%増

一連の対日直接投資は、わが国経済にプラスの効果を与え始めている。肥後銀行と鹿児島銀行を傘下に持つ九州フィナンシャルグループの2022年度決算では、純利益が前年度比48.1%増の約246億円だった。TSMCの進出に伴い周辺の不動産開発が増加して融資は伸び、利息収入が増加した。

工場建設を一つの起点に、新しい人の流れ(動線)が確立され、飲食、宿泊、交通などサービス業の裾野も広がる。工場の稼働によって労働市場も活性化する。戦略物資としての位置づけが高まる半導体の製造に関しては、専門人材の育成も急務だ。学びなおし機会の提供を含め、わが国の教育体制の強化も避けて通れない。迅速に半導体を調達して自動車や家電の生産を行うために、他の企業が近隣地域に生産拠点を設ける可能性も高まる。

熊本県におけるTSMCの工場建設は、直接投資が波及需要を生み出して経済が成長するということを確認する格好のケースだ。サムスン電子など他の半導体企業も供給網の強靭化、顧客との関係強化などを狙って対日直接投資を積み増す可能性は高い。

今こそ専守防衛型の戦略から転換するとき

わが国は、海外企業の期待に確実に応えなければならない。1990年の初頭に資産バブルが崩壊した後、わが国では専守防衛型の事業戦略をとる企業が増えた。新卒一括採用、年功序列、終身雇用の雇用慣行は温存され、本邦企業の多くが国際分業の加速など環境変化に対応することも難しくなった。

それでも、まだ、わが国の企業は半導体の部材や製造装置などの分野で競争力を維持している。その間に企業は新しい発想の実現にチャレンジし、より純度が高い部材、さらに精密な製造や検査の装置の供給体制を実現しなければならない。それは、次世代のロジック半導体製造に取り組むラピダスの事業運営にもかなりの影響を与えるだろう。

足許、世界の半導体市況は総崩れというべき状況にあるが、わが国の多くの企業は潤沢にキャッシュを蓄えている。手元の資金を需要増加が見込まれる分野に再配分し、海外企業には模倣できないモノづくりの力を磨くことが本邦の半導体関連企業に求められている。それは自動車などわが国の大手企業の事業戦略にも大きな刺激になるはずだ。