安曇野で「陸ワサビ」栽培本格化、「水」より低コスト…わさび漬など加工品に

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ビニールハウスで膝丈ほどに育った陸ワサビを収穫する浅川さん(15日、安曇野市で)

 全国有数のワサビ産地として知られる長野県安曇野市内で、ビニールハウスの畑で育てる「 陸おか ワサビ」(畑ワサビ)の栽培が本格化している。清流を利用して作る「水ワサビ」(沢ワサビ)と比べ、生産コストを抑えられ、使われていないビニールハウスの活用にもつながる。県内のワサビ生産量が減少する中、地元のJAあづみなどは農家を募り栽培面積を広げて陸ワサビの産地化を目指す。(鈴木直人)

今後の収入源に

 同市穂高の畑で15日、農家の浅川晃一さん(54)が昨年9月に植え付けた陸ワサビを丁寧に収穫した。市内で陸ワサビの栽培に取り組む農家やJAあづみの職員らと、出荷の流れや手入れの方法などを確認した。

 主力のトマトやキュウリの栽培にも影響がないことから、2021年から陸ワサビの生産に乗り出し、今年は1トン以上の収穫を見込んでいる。浅川さんは「無事に丈も大きく成長してくれた。今後の収入源にしたい」と話す。

 JAあづみは20年10月、同市豊科のワサビ加工会社「マル井」と連携し、陸ワサビの試験栽培を始めた。収穫量やコスト面から事業化が可能と判断し、21年から生産者を募集している。今年は15戸の農家が42アールで栽培し計約30トンの収穫を見込む。全量が加工品の原料として同社に出荷される予定だ。

 湧水などで育てる水ワサビは根茎の部分をすり下ろして使われる。陸ワサビは、主に葉や茎の部分がチューブタイプのわさびや、わさび 漬づけ などの加工品になる。

 安曇野地域は北アルプスからの地下水に恵まれ、水ワサビの品質は高く、ワサビ田特有の景観は観光名所としても有名だ。県内の水ワサビの生産量の9割以上は安曇野産だが、水ワサビ栽培には水温が10~15度の清流が必要で収穫まで1年以上かかる。水の中での作業は農家の負担が大きく、近年は後継者不足や湧水量の減少が課題だ。

荒廃農地で

 農林水産省の統計によると、県内のワサビ生産量は減少傾向で、11年以降、水ワサビは1000トンを下回り、21年は752・1トン。陸ワサビも同様で、21年は5・7トンと11年(53・1トン)の約10分の1にとどまる。だが、陸ワサビは畑で栽培するため、使われていないビニールハウスや荒廃農地の活用につながる。寒さに強く、冬期の光熱費も抑えられる。9月頃に作付けし翌年5月頃に収穫期を迎えることから、コメなどの作物と収穫時期が重ならないことも利点という。市は22年度からの5か年計画で陸ワサビを「戦略作物」に位置付け、作付けを促進する。

 マル井は生産技術の研究を進めながら今秋以降も農家を募り、JAあづみと協力して栽培面積を拡大する計画だ。同社製造本部研究室の松田洋介室長は「安曇野ブランドを守り、全国のニーズに応えたい」と話す。