“万年警部”『相棒』杉下右京の年収は? 警察官「キャリアとノンキャリア」の出世と給料格差の仕組み

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警察官の出世スピードや給料はどのような仕組み?(写真:イメージマート)

『教場』『相棒』『踊る大捜査線』……など、数あるドラマのジャンルの中でも“警察モノ”はとりわけ人気が高い。ストーリーの味付けとして、現場の捜査を担当する警官と上層部の軋轢、いわゆる「キャリア」と「ノンキャリア」のぶつかり合いが描かれることもある。しかし、現実の警察官において、両者の待遇がどう違うのかは、意外と知られていない。あらゆる仕事・業界の“マネー格差”について徹底調査した話題の新刊『マネー格差の天国と地獄』(ニューノーマル研究会・編)から、警察官の出世のスピードや給料が、どのような仕組みになっているのか、その実態をレポートする。

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 警察官の採用には、本庁たる警察庁に入庁する国家公務員と、警視庁(東京都の警察本部)および各道府県の警察本部が採用する地方公務員がある。『踊る大捜査線』でたとえると、柳葉敏郎が前者で「キャリア」、織田裕二が後者で「ノンキャリア」と呼ばれていると言えば、わかりやすいだろうか。

 ノンキャリアで警視庁の警察官となり、警視まで上って中途退職、その後は作家として活躍する濱嘉之氏が語る。

「警察官のキャリアは国家公務員総合職採用試験にパスした者。自ずと一流大学の卒業生が多い。全国には警察官が30万人ほどいるのですが、キャリアはその0.2%ほど。採用後は警部補からスタートで警察庁ほか、警視庁や全国の道府県警本部を巡って出世していくわけです」

 一方、ノンキャリアは採用後に警察学校に入学。卒業と同時に各部署へ配置となり、巡査という階級から警察官人生をスタートする。出世するためには昇進試験の結果が物を言う。

 激務の合間を縫って試験対策に励み、見事昇進しても、ノンキャリアの昇進はごく一部の例外を除いて「警視正」まで。警部補で定年退職を迎えるケースも珍しくない。

キャリアの出世すごろく

 ノンキャリアが出世に苦しむなか、キャリアは警察官人生を警部補の階級からスタートできる。ノンキャリアの夢のゴール地点たる警視正には、キャリアであれば35歳前後で到達する。

 実際のキャリアの生活を少しだけ具体的に整理しておく。試験に合格し、警部補として入庁後、人事院と警察大学校で約5カ月の研修を受ける。その間に警察行政や捜査のイロハはもちろん拳銃の扱い方や柔道、剣道などの訓練も受ける。ノンキャリアのように交番勤務もここで経験する。

 そして神奈川や大阪、福岡など大都市圏の県警で1年ほど過ごすことになる。24歳前後で警部に昇進し、2~3年は警察庁の各課に配属され、係長として勤務する。30歳前後で警視となり、警察庁と警視庁や各道府県警、または他の官庁を行ったり来たりして管理職としての経験を積む。

“万年警部”『相棒』杉下右京の年収は? 警察官「キャリアとノンキャリア」の出世と給料格差の仕組み

警察ドラマの階級早見表

警察ドラマの階級早見表

 35歳前後で前述のように警視正に昇進する者が出始める。40歳くらいになると小さな県警のナンバー2である警務部長などを務める者が出てくる。45歳前後で警視長に昇進し、大規模府県の警務部長や管区警察局の部長などを務める。50歳手前になると小規模な県警の本部長や警察庁の課長になる者も出始める。

「ちなみに大規模府県というのは、福岡や京都、大阪など政令指定都市を含む地域や、宮城県、埼玉県や、千葉県など全国の12県警のことです」(濱氏)

 かようにキャリアの出世すごろくは優遇されているのだ。

警察庁から出してもらえないキャリアも

 ただ、各地の県警を行ったり来たりはするものの、どこでもお客さん扱いだ。現場経験の少ないキャリアは多い。濱氏は次のように語る。

「キャリアだからって仕事ができる人材ばかりじゃない。警察庁に採用され、全国の警察の本部長などを経験して出世の階段を上るのがキャリアですが、著しく仕事ができなかったり、人格的に難のある人間は警察庁から出してもらえない。たとえばそういう人間を警視庁に出向させようとしても、現場のノンキャリアが抵抗します。

 全警察官30万人中550~600人がキャリアでそれ以外はノンキャリアです。警察組織を動かしているのはノンキャリアだといえる。彼らの意向を汲み取らないと組織は回らないのです。おかげでサッチョウ(警察庁)で飼い殺しのキャリアもいたりします」(濱氏)
 不祥事で転落するキャリアも多い。天国生活から転げ落ちるのだから地獄の底は深い。

「私が警部補だったころ、警視庁にやってきたあるキャリアに嫌われましてね。あんなヤツは辞めさせろ、みたいなことを平気で言う男でした。こういう場合、喧嘩しても仕方ない。処分されるのはノンキャリアの私のほうですから。まぁ、キャリアはすぐに配属替えがあるので、しばらく我慢したらいなくなってくれるからいいけどね。その男は後に愛人関連の問題を起こして警察以外の関連組織に出向させられ、結局戻ってこられなかった」(濱氏)

 キャリアの場合、トップの警察庁長官まで上り詰めると年収は2400万円にも達する。ノンキャリアは各地方自治体の懐具合によって増減するので一概には言えないが、総務省「地方公務員給与実態調査」(2021年)をもとに算出すると、賞与も含めた平均年収は約700万円といったところ。

 ちなみにドラマ『相棒』の杉下右京はキャリア入庁だが出世に興味がなく、万年警部の設定だ。年齢的に管理手当なども付くと思われ、年収は800万~900万円と想定される。

※『マネー格差の天国と地獄』(ニューノーマル研究会編・小学館)を元に構成