大手銀行の「高齢者イジメ」がひどすぎる…長年の「お得意様」を切り捨てた先にある末路

突如発表されたメガバンクによる振込手数料の大幅値上げ。「もう窓口には来ないでくれ」という銀行側の態度の裏に透けて見えるのは、「高齢者イジメ」とも言える仕打ちだ。デジタル化やコストカットの波に翻弄される高齢者の実態を、前編記事「メガバンクの振込手数料「大幅値上げ」の衝撃…もはや大手銀行は「金持ち」しか相手にしない」に引き続き紹介する。

ネットが使えないなら切り捨てる

これまで、何十年も利用してきた「客」としては、複雑な思いだ。預金をしてもろくな金利もつけないくせに、振り込みや引き出しでさんざん手数料をふんだくった挙げ句、いまさらネットが使えない客はいらないと切り捨てる。

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目先のカネ儲けばかり考えたやり口には心底腹が立つが、このようなデジタル弱者の切り捨ては、いまや銀行業界に限った話ではない。

作家の下重暁子氏も昨今のこうした「高齢者イジメ」に憤っている。

「最近は色々な行政手続きがスマホでできるようになって、それ自体は便利で結構なことです。しかし、なんでもスマホでやるのが当たり前だと強制するような傾向には首を傾げざるをえませんね。

典型的だったのが、コロナワクチンの接種予約でした。始まった当初はなかなか電話もつながらず、ネットで予約を申し込むしかありませんでした。

しかし、本来、重症化リスクが高く、早くワクチンを接種すべきはずの高齢者ほど、ネットでの予約は苦手です。子や若い知り合いに頼んで予約してもらったり、あきらめて接種が遅くなってしまったりした人も多かったと思います」

駅員から言われた「驚きの一言」

他に身近なところでは、電車やバスの時刻表もどんどんデジタル化され、紙のものは見かけなくなった。

「私は軽井沢と東京を行ったり来たりすることが多いのですが、ときどき駅で時刻表をもらって財布の中に入れていました。ところが先日、駅でいつも置いてある場所を探しても見当たらない。駅員に尋ねると『紙の時刻表は廃止したので、ネットで調べてください』と言われました。

もちろん、私だってスマホを持っていますし、その気になれば時刻表も調べられます。でも財布に入れた紙の時刻表のほうがずっと便利で、面倒じゃない。そう感じているのは、私だけではないはずです」(下重氏)

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デジタル化と高齢者イジメの波は、あらゆる場所に押し寄せている。作家の岳真也氏(75歳)は、ファミレスやチェーン居酒屋で不便を感じるようになったとぼやく。

「先日、店頭に『ランチセットが800円』という表示があったので、中に入ってみました。ところが、注文はタッチパネルで行う方式に変わっていた。いろいろ自分でいじってみても、どこにランチセットがあるのかわからない。

若い店員を呼んで聞いてみたけれど、その店員もわからなくて先輩を呼んできました。結局、紙のメニューを見せられて、それで注文することになりました。これで本当に世の中、便利になったのか不思議な気持ちになりましたね。

他にも僕が通っている図書館では、席を取るのに図書館カードのバーコードを読み取らせて、タッチパネルから空いている席を選ばせる形式になりました。僕は対応できたけど、ちょっと面倒だし、なかなか慣れませんね。僕よりもっと高齢でそんな操作ができない人は席も与えられないのでしょうか」

もはや「庶民」を相手にしない

これから日本の労働人口はますます減っていく。2022年の労働力人口は約6900万人だが、2030年には6500万人を割り込み、あらゆる業界で人手不足が深刻化するはずだ。

そうなると、コンビニやレストランの注文や会計はますますタッチパネルになって、対人サービスを受けられる機会は減っていくばかりだろう。

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皮肉なのは、あらゆる企業が「サービス向上」を標榜しつつ「デジタル化」を進めていることだ。確かにデジタル化で便利になる側面もある。だが逆に、面倒なスマホ操作や融通の利かなさに不便さを感じる機会が増えていることも事実だ。

「銀行のやりかたが浅ましいのは、手数料を上げて『誘導する』ところです。もし、やむを得ない事情でネットを使ってほしいのなら、手数料で促すのではなく、しっかりと会社が理由を説明すべきでしょう。

時刻表をなくした鉄道会社にしても、『サービス向上』を目指すと言っているのに、その実、自分たちのコスト削減しか考えてない。それでサービスを提供しているつもりとは、おかしな話です」(前出の下重氏)

みずほ銀行支店長や日本振興銀行代表執行役社長も務めた作家の江上剛氏が語った通り、メガバンクはもはや私たち、普通の客を相手にする気はない。

「表向きは庶民を相手にするような顔をして、テレビでCMを流したりもしていますが、それはまやかしです。メガバンクがそういう風に変わってしまったのだから、客のほうももうメガバンクを利用するのはやめてしまえばいい。

私も原稿料の振り込みなどで利用しているのは地元の信用金庫です。もちろんみずほ銀行も利用しているけれど、担当者が挨拶に来ることもないし、来たとしても、いらない金融商品などを勧めてくるだけでしょう。

信用金庫は支店長が挨拶に来たり、講演会をセットするから来てくださいと提案してくれたりする。同じ町に暮らしているから親近感も湧くし、顔なじみにもなって、いろいろと相談もしやすいんです」(江上氏)

信用金庫のほうがいい

経済ジャーナリストの荻原博子氏も「これからはできるだけメガバンクの窓口に近寄らないほうが得策だ」と語る。

「振込手数料だけでなく、年金を受け取る際などの引き出し料もどんどん上がっていくでしょう。それでも窓口に行ったら高い振込手数料を取られるだけでは済みません。

『老後の資金は十分ですか』『相続の準備はできていますか』と話しかけられて、儲かるかどうかわからないのに手数料ばかり高い金融商品を買わされてしまうのがオチです。

自衛の手段としては、郵貯や信金など手数料が安いところを使うか、子どもや知人にネット決済のやり方を教えてもらってデジタル口座を使うしかありません」(荻原氏)

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デジタルに馴染めない人たちが高い手数料を払わされる一方で、スマホを使うことに抵抗のない世代はその恩恵をますます受けている。

デジタル化」の果て

例えば、メガバンクに加えて50ほどの金融機関が参加している「ことら送金」という個人間送金サービスがある。

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「一回10万円以下の送金が無料で行えます。自分の口座をネットバンキングに登録し、銀行ごとに対応するアプリをダウンロードします。送金する相手を電話番号、メールアドレス、口座番号のどれかで特定できれば、すぐに送金できます。友達同士の割り勘や離れて暮らす家族への仕送りなどにも非常に便利です」(荻原氏)

他にも使うだけでポイントが貯まったり、カードにマネーをチャージするごとにポイントが加算されたりして、現金を使うよりも3%も5%もお得な電子マネーが百花繚乱だ。しかし、これらはすべてデジタル化に抵抗のない世代のためのサービス。

のけ者にされるのは、いつも高齢者だ。前出の下重氏が嘆く。

「よく政府や企業は『多様性』というお題目を唱えますが、身体や認知機能が弱まった高齢者に寄り添う姿勢は口だけで、実際のサービスはどんどん冷たくなっている気がしますね。

ただ、今後もっと技術が発達していけば、忘れられつつある人間の温かみや付加価値が見直されるようになると思います。皮肉なことに日本文化の一見、過剰とも思える接客文化は海外から大きな価値があると評価されるようになりました。デジタル化やコストカットでは絶対に生まれない価値を、今一度見直してもらいたいと思います」

デジタル化や効率化ばかり押し進めた先にあるのは無味乾燥な貧しい世界だろう。なんのために便利さを求めるのか。それを見失ってはいけない。

「週刊現代」2023年5月20日号より