怖すぎる…アメリカの「金融破たん連鎖」が、ついにカナダや欧州にも「飛び火」しそうなワケ

「過去2番目の規模」の破綻

5月1日、資産規模で全米第14位(2022年末)の銀行であった、ファースト・リパブリック銀行(FRC)が経営破綻した。

FRCの預金のすべてと殆どの資産はJPモルガンが引き継ぐ。

破たんした銀行の規模としては、2008年のワシントン・ミューチュアル(JPモルガンに買収された)に次いで過去2番目だ。

3月にシリコンバレー銀行とシグネチャー銀行が破たんしたとき、米国の財務省や連邦預金保険公社(FDIC)は預金の全額保護を表明した。

image
〔PHOTO〕Gettyimages

それでも、FRCは預金の流出を止められなかった。

特に、SNSによって、人々の不安心理が急速に伝播したことは見逃せない。

FRCなどから預金を引き出し、利回りの高いMMFなどにうつす人も増えた。

今後、経営不安の懸念が高まる、米国の中堅銀行は増えることが懸念される。

今年2月末から4月末の間、米銀株で構成されるKBWナスダック銀行株指数は約26%下落した。

投資家が銀行株から逃避していることが浮き彫りになる。

特に、経営が行き詰まりそうな銀行からは、投資家のみならず預金者も逃げ出すことも考えられる。

高リスクのローンビジネスを強化したFRC

FRCの破たんは、ある意味では古典的な金融機関の経営の失敗といえる。

重要なポイントは、銀行自身の調達と運用のミスマッチがあったことだ。

FRCは預金を集め、流動性の低い資産への貸し出しなどで利ザヤを獲得してきた。

先に破たんしたシリコンバレー銀行などと同様、FRCもITスタートアップの企業への投融資などを行った。

また、FRCは富裕層向けに“インタレスト・オンリー”と呼ばれる特殊な住宅ローンビジネスを注力した。

通常の住宅ローンでは、返済開始と同時に金利部分と元本部分の支払いが発生する。

ところが、インタレスト・オンリー型の契約では、借り手は10年などの一定期間は金利の支払いのみを行う。

10年後から元本の返済も始まる。

元本の回収が先延ばしになるという点でリスクは高い。

FRCは商業用不動産などへの投融資ビジネスにも注力した。

FRCは、低金利環境は続き資産価値の上昇も継続すると過度に楽観したといえる。

FRCは積極的なリスクテイクを続け、不動産やIT関連企業への投融資を積み増した。その結果、FRCの融資債権の価額は増加した。

3月末時点のFRCのバランスシートを確認すると、資産総額(2329億ドル、1ドル=135円で約31兆円)のうち融資債権は1725億ドルを占めた。

しかし、良好な条件がいつまでも続くとは限らない。

2022年3月にFRBは急速に金融を引き締め始めた。

急激な金利上昇によって投融資を行った資産の価値は下落した。

さらに、3月にシリコンバレー銀行とシグネチャー銀行が破たんした。

預金が引き出せなくなるという群集心理はSNSを介して急増した。

1~3月期、FRCの預金は約4割減少した。

預金の流出、流動性の低い不動産などへの融資債権の価値下落などが重なった結果、FRCの資金繰りは行き詰まり破たんした。

中堅銀行の破たんと商業用不動産ファンド

今後、米国の中堅銀行の分野では、“破たん予備行”探しが活発化するかもしれない。

FRBとFDICは金融機関の監督を行う人材の不足によって対応が遅れたと報告している。

結果的に、FRCなどの過度なリスクテイクは野放しにされた。

今後、米金融当局は規制を強化し、金融システムの健全化を図るとみられる。

それに伴い、流動性の低い資産を売却してキャッシュ保有を増やそうとする銀行は増えるだろう。

問題は、金利上昇や米国経済のさらなる減速、および後退リスクの上昇などを背景に、流動性の低い資産の売却が追加的に難しくなる懸念だ。

金融政策の引き締めや景気後退の懸念で、資産売却は難航することが予想される。

2月末から4月末の間、2022年末時点で全米20位のキーコープ、同37位のコメリカの株価はともに38%程度下落した。

また、米国の銀行だけではなく、欧州やカナダの銀行も資産価格の下落の影響を受ける可能性がある。

今すぐではないにせよ、米国の中堅銀行の資金繰りの懸念が追加的に高まり、それが欧州などの金融セクターに飛び火するリスクは軽視できない。

米中堅行の資産売却増加によって、商業用不動産市況にもより強い下押し圧力がかかるだろう。

それに伴い、規制が相対的に緩い投資ファンド業界からの資金流出も増加しそうだ。

そうなると、連鎖反応のように、銀行の融資債権の焦げ付きや不良債権の増加懸念は高まり中堅銀行の経営体力の低下懸念も高まる。

FRBやECBがインフレ鎮静化のために金融引き締めを継続する可能性が高い。

世界経済の先行き不透明感は一段と高まっていると考えるべきだ。