「中高年の帯状疱疹」に要注意!発症しやすい人の“2つの特徴”と予防法

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写真はイメージです Photo:PIXTA

子どもの病気というイメージが強い「水ぼうそう」。実際、水ぼうそうは子どもに多い感染症だが、そのウイルスは水ぼうそうが治ったあとも体の中に潜んでおり、50歳以降にウイルスが再び暴れだし「帯状疱疹(ほうしん)」という皮膚疾患を招くこともあるという。中高年以降はとくに注意が必要な帯状疱疹について、専門医に聞いた。(清談社 真島加代)

日本人成人の約90%に帯状疱疹の発症リスク

 幼い頃、水ぼうそう(水痘)にかかった経験がある中高年も多いだろう。水ぼうそうは、発熱やかゆみを伴う発疹が全身に現れ、一週間ほどで治癒する感染症。はるか昔に罹患(りかん)した人でも、つらい思い出として記憶に残っている人もいるかもしれない。

 実は、過去に水ぼうそうを患った人は「帯状疱疹(ほうしん)」という別の疾患を発症する可能性があるという。

「帯状疱疹は、水ぼうそうと同じ『水痘・帯状疱疹ウイルス』によって発症する皮膚の病です。このウイルスは水ぼうそうが治ったあとも体内に潜伏しており、加齢や疲労、ストレスによる免疫力の低下が引き金となって再び活性化し『帯状疱疹』を発症します。一つのウイルスが、二つの病気の原因になるのです」

 そう解説するのは、愛知医科大学皮膚科学講座教授の渡辺大輔氏。国立感染症研究所の調査(*)では、日本人成人の90%以上の人々の体内に、水痘・帯状疱疹ウイルスが潜伏していることが明らかになっているという。

「帯状疱疹の主な症状は、皮膚の発疹。体の左右どちらかの神経に沿って、赤い斑点と水ぶくれが帯状に生じます。また、皮膚症状とともに神経にも炎症を起こし、痛みやかゆみを感じるのも特徴です。痛みの強さはまちまちで、まったく痛みがない人もいれば『焼けるような』『締め付けるような』『ズキンズキンとする』持続性の痛みが続き、眠れない夜を過ごす人もいます」

帯状疱疹のイラスト
体の左右どちらかの神経に沿って帯状に赤い発疹が現れる帯状疱疹。発疹が生じる部位でもっとも多いのは、上半身から胸や背(上肢~胸背部)、次いで腹から背(腹背部)だという。 
イラスト:イラストAC/KOKEMOMO

 発疹が現れる2~3日前から痛みを感じる人が多く、上半身が痛むため「腰痛」と勘違いする人も。渡辺氏は「発疹がなく“体の片側だけピリピリする”など、普段とは違う感覚があるなら、帯状疱疹の初期症状の疑いがある」と話す。

「通常ならば、3週間ほどで皮膚症状も痛みも治まります。しかし、神経の損傷が激しい場合は、発疹が消えた後も痛みが続く『帯状疱疹後神経痛(PHN)』という後遺症が残ることもあります。ウイルス感染によって神経が破壊され、神経の痛みを伝える回路が過敏になってしまった状態です。一日中痛みが続き、顔を洗う、シャツを着るなど、普段なら“痛い”と思わない刺激も痛みと感じるなどの症状が現れます」

 帯状疱疹発症時の痛みが強く、皮膚症状が重かった人はPHNに移行しやすく、50歳以上で帯状疱疹を発症した人のうち、約2割がPHNになるという。何げない動作にも激痛が走るため、日常生活を送るのも苦労するそうだ。

 また、水ぼうそうとは異なり、他人にうつる疾患ではないという特徴もある、と渡辺氏。

「帯状疱疹は、体の中のウイルスの再活性化が原因のため、水ぼうそうになった経験がある人には感染しません。ただし“まだ水ぼうそうになっていない人” と帯状庖疹の人が接触すると、水ぼうそうを発症する可能性があります。もしも帯状疱疹を発症した場合は、水ぼうそうにかかっていない乳幼児や、幼児には接触しないようにしましょう」

 がんや糖尿病などの基礎疾患の影響で免疫力が低下している人も、ウイルス感染のリスクがあるため、同様の注意が必要だという。

発症しやすい人の二つの特徴とは

 過去に水ぼうそうを経験した人なら、誰しも発症のリスクを抱えている帯状疱疹。発症しやすい人には2つの特徴がある、と渡辺氏は話す。

「1つは『50歳以上の人』です。体内に潜伏している水痘・帯状疱疹ウイルスは、隙あらば再活性化して帯状疱疹を発症させようとしますが、若い人は免疫力が高く、メモリーT細胞という細胞がウイルスの再活性化を素早く検知して未然に防ぎます。しかし、加齢とともに免疫力は衰えていくので、再活性化を防ぎにくくなるのです。そのため、50歳を超えてからは帯状疱疹の発症率が高くなります。約3人に1人が80歳になるまでに帯状疱疹を発症するという調査結果(**)もありますね」

 30代、40代の人が帯状疱疹にかかっても軽症ですむケースが多く、年を重ねるほどに重症化する傾向もあるという。

 そして二つ目の特徴は「免疫力が低下している人」だ。

「年齢にかかわらず、疲労や睡眠不足、ストレスなどの負担は免疫力の低下を招き、帯状疱疹の発症リスクが上がります。また、骨髄移植や臓器移植後の患者さん、白血病、悪性リンパ腫といった血液のがん、糖尿病など免疫力が低下する基礎疾患がある人も、帯状疱疹を発症する可能性があります」

 帯状疱疹は、年齢と免疫力に深く関わる疾患なのだ。一度発症すると再び「水痘・帯状疱疹ウイルス」の免疫ができるため再発しにくい、という特徴もあるが、約6%(**)の人は再発を経験しているとの調査結果も存在するため、油断はできない。

 実際に帯状疱疹を罹患した場合は、症状が現れてから3日以内に皮膚科を受診してほしい、と渡辺氏。

「発疹が出る部位によっては、危険な合併症を招く可能性があります。たとえば、顔、とくに目の周りに発疹が出た場合は、角膜炎や結膜炎、ぶどう膜炎といった目の疾患を招き、視力低下や失明につながる恐れがあるのです。そのほか、顔面神経まひや“耳の帯状疱疹”を特徴とする合併症『ラムゼイハント症候群』を発症すると、めまい、耳鳴り、難聴に悩まされ、生活に支障をきたします」

 自然に治癒するケースもあるが、治療の遅れはこれらの合併症の発症やPHNに移行する可能性も高まる。さまざまなリスクを下げるためにも、早期治療が望ましいという。

「医療機関では、ウイルスの再活性化を抑える抗ウイルス薬や、痛み止めを処方して痛みを和らげる投薬治療を行います。重症の場合は、入院して点滴をすることもありますね。発疹が治まったあとにPHNになってしまった場合は、痛み止めを処方するなど、症状に適した治療が受けられます」

中高年の帯状疱疹を予防する方法

 帯状疱疹を発症すると、数週間も激しい痛みやかゆみに苦しめられる。予防する方法はあるのだろうか。

「現在50歳以上で、過去に水ぼうそうにかかった経験がある人ならば、帯状疱疹ワクチンによる予防ができます。ワクチンには生ワクチンと不活化ワクチンの2種類があります。現代の50代はまだまだ働き盛りなので、元気に過ごすためにワクチンを打っておくのも選択肢のひとつですね。ただし、ワクチンを接種できない人や、基礎疾患を抱えていて接種の際に注意が必要な人もいるので、まずは医師と相談してください」

 また、日頃から免疫力を高める生活を送るのも、帯状疱疹予防につながる、と渡辺氏。

「免疫力の低下が発症のきっかけになるので、免疫力の維持を心がけましょう。食事の好き嫌いや運動不足、睡眠不足など、免疫力を下げる生活習慣を改善し、バランスの良い食事を取り、ウオーキングなどの運動習慣を取り入れるのが理想です。そのほか、音楽鑑賞や映画鑑賞、入浴などの自分の趣味や嗜好(しこう)に合ったストレス解消法を探すのもおすすめですね」

 高齢で帯状疱疹を発症するほど、痛みが長引くおそれもあるという。老後を快適に過ごすためにも、早めの帯状疱疹対策を心がけよう。

<プロフィール>
渡辺大輔(わたなべ・だいすけ)
愛知医科大学皮膚科・部長、皮膚科学講座・教授。名古屋大学医学部医学科を卒業後、皮膚科学とともにヘルペスウイルスの研究を行う。現在はヒトパピローマウイルス感染症である疣贅(いぼ)の治療、また帯状疱疹後神経痛(PHN)の分野にも興味を持つ。