「この地獄が永遠に続くのかと…」68歳生涯独身男性が移住先の地方で直面した「ヤバすぎるご近所づきあい」の壁

求めていた「ご近所付き合い」が煩わしくて

少子化や核家族化により、65歳以上の高齢者のひとり暮らしが増加している。6年前に都内から西日本のある地方に移住した宇梶慎太郎さん(仮名・68歳)。東京・港区で生まれ育った生粋の江戸っ子で、結婚歴はなく、大学を卒業後、電気関係の会社への就職をきっかけに実家を出て以来、ずっとひとり暮らしだった。

前編『生涯独身・68歳江戸っ子男性が寂しさゆえに「関西に家を買って移住」もわずか半年で絶望するまで』では渋谷・新宿・池袋と賃貸マンションを転々としていた慎太郎さんが地方移住を思い立ち、退職金で中古の戸建てを買って新生活をスタートさせるまでを伝えた。

毎日賑やかに過ごしていた慎太郎さんだったが、「楽しいと思えたのは移住して半年くらいまで」と明かすのだ。なぜか。

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PHOTO:iStock

「最初はなんやかんや面倒を見てもらえるのが嬉しかったんですけど、一通りのことがこなせるようになり、自分の生活パターンが出来てくると、今まで有難いと思っていたことがどんどん煩わしくなったんです。

例えば、家庭菜園についても、タネの蒔き方から、水のやり方、肥料の与え方などに口を出したくなるのはわかるんですけど、趣味の範囲でやってて、作物の色や形、収穫量などにこだわらない私にとってはお節介でしかないんですよ。

食材や手料理などもよくおすそわけしてくれたんですけど、食が細く、偏食気味の私は困惑するばかり。どんなに固辞しても『遠慮しないでいいから!』と受け取らせるのは、押しつけがましさしか感じません。かと言って無駄にするのも忍びないので、アク抜きとか下ごしらえなんかもわからないまま、適当に調理したり、無理やりノドに流し込むように食べるしかなく、ホントに参りました」
厚意という名の押しつけに辟易する慎太郎さんだったが、なかなか断ることができない。

永遠に繰り返されるやりとりを想像してゾッと

やがて「くれるって言うんだから、もらっておけばいい」と開き直り、食べずに捨ててしまうことがあっても罪悪感を抱かないようになった頃、さらに厄介な問題に直面する。

「『お礼』と『お返し』です。『先日はご馳走さまでした』とか『この前は有難うございました』とか、何かしてもらったら、お礼と一緒に何かお返しをするのが当たり前になってるんですよ。最初はそれに気付かなかったんで放置してたんですけど、『この前あげたみかん甘かったでしょ?』とか『昨日持って行った煮物は食べたかい?』とか、なんか思い出させるような確認の仕方をするんで、なんか意味深だなと思ってたら、そういうことでした。

大根をもらったから人参をあげる…みたいな物々交換ができればいいんですけど、ちゃんとした農家さんがくれた立派な野菜のお返しに、私が家庭菜園で作ったショボい野菜をあげるわけに行かないじゃないですか?

料理もそうですよ。ベテランの主婦が作ったもののお返しに、調理の仕方も怪しい私の手料理をあげるわけに行かない。『向こうが勝手にしたことなんだから』と思っても、それで済まないのが地方の怖いところ。もう仕方なくスーパーで酒とかジュースを買って『先日のお礼です』って届けました。

『気を使わせちゃって悪いねえ』なんて恐縮されるとちょっとホッとするんですけど、『また何かあったら持って行くからね』って言われると『これが永遠に続くのか』とゾッとしましたね」

「迷惑だな」と思いつつも作り笑顔で頭を下げ、さらにお返しのために散財する…この繰り返しの生活に慎太郎さんのストレスは溜まる一方。

「もうバカバカしくなっちゃってね。一度イヤだなと思うと、他にもどんどんイヤなことが増えるんですよね。最初は親しみがこもってるように思えた『都会から来た人間』呼ばわりも、だんだん『上から目線』に聞こえて不愉快だったし、地方に残る、日本の古い風習(?)みたいなものを知らないというだけで『いいトシしてそんなことも知らないの?』と無知扱いされるのも屈辱でしたね。

スーパーに行けば『何買った?』とカゴを覗かれて『インスタントばっかりじゃないの~』とダメ出しをされるし、私の留守中に勝手に宅配便を受け取って中身を見られたこともあります。フレンドリーな人間関係に飢えていたのは確かですが、私が求めていたのはこれじゃない!と移住生活は4年も持たずに終わりました」

世の中がコロナシフトに入り、近隣住人の行き来がなくなったタイミングで慎太郎さんはひっそりと東京に戻って来た。

「やっぱりこっちの方が快適ですよ。都会は人間関係が希薄だと思いましたけど、あれは『一定の距離を置くことで他人の生活や人権を尊重する』意味合いだったんだなと気づきました。ついでに私にとってはその方が楽なんだということにも、です。

今は小さなアパートで暮らしています。田舎の家はそのままだと売れないので更地にし、ゲートボール場として自治体に買い取ってもらいました。二束三文ですけどね。損した分の差額は地方への旅費だったと思うことにします」

内閣府が行った「国際比較調査に見る日本の高齢者の意識」のデータによると、「互いに相談しあったり、病気の時に助け合う高齢者」の割合は日本が最も低く、「互いに相談したり、世話をする友人がいない」と回答した割合は日本が最も高かったという結果が出ており、一見親密そうな地方の高齢者コミュニティも実は案外淡泊なのかもしれない。