なんと「がん」の70%は予防できる…そのための「10の方法」が「逆に意外」だった…!

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日本人には、日本人のための病気予防法がある! 同じ人間でも外見や言語が違うように、人種によって「体質」も異なります。そして、体質が違えば、病気のなりやすさや発症のしかたも変わることがわかってきています。欧米人と同じ健康法を取り入れても意味がなく、むしろ逆効果ということさえあるのです。見落とされがちだった「体の人種差」の視点から、日本人が病気にならないための方法を徹底解説!
*本記事は『欧米人とはこんなに違った 日本人の「体質」 科学的事実が教える正しいがん・生活習慣病予防』(講談社ブルーバックス)を抜粋・再編集したものです。

がんの70%は予防できる

2007年、世界がん研究基金(WCRF)と米国がん研究機構(AICR)は、それまでに世界各地でおこなわれた研究や大規模調査の結果を総合的に分析して、『食物、栄養、身体活動とがん予防:世界的展望(Food, Nutrition, Physical Activity, and the Prevention of Cancer: a Global Perspective)』という、ぶ厚い報告書を公表しました。そしてそのなかで、有効と思われるがん予防法を10項目示しています。まさに人類の英知の結晶です。どんな項目が並んでいるのでしょうか。

1 肥満をさける
2 よく体を動かす
3 カロリーの多い食品、糖分の多い飲料をさける
4 植物性の食品を食べる
5 肉の摂取をひかえ、加工した肉は食べない
(注:家畜として飼われている、牛、豚、羊、山羊などの肉。鶏肉は含まない)
6 アルコールをひかえる
7 塩分をひかえ、カビのはえた食品は食べない
8 サプリメントに頼らない
9 できるだけ母乳で育てる
10 がんになったことがある人も、以上の助言に従う

……ちょっと拍子抜けしませんでしたか? 誰にでも予想がつくような予防法ばかりで、しかも何となく聞きおぼえのある言葉がならんでいます。

肥満をさける、と言われると、内臓脂肪はメタボのもと、という話を思い出しますし、カロリーの多い食品や糖分の多い飲料はいかにも体に悪そうです。肉に入っている飽和脂肪酸の取り過ぎに注意して、アルコール、塩分はひかえめに。そうそう、サプリメントじゃなくて、食品に含まれる有効成分を丸ごと摂取するほうがいいんだったな。……これって、生活習慣病の注意点と同じじゃないの?

そのとおりです。でも、これは不思議なことではありません。ちょっと意外かもしれませんが、がんは生活習慣病に分類されているからです。旧厚生省の公衆衛生審議会は、1996年に生活習慣病をこう定義しています。

「生活習慣病は『食習慣、運動習慣、休養、喫煙、飲酒等の生活習慣が、その発症・進行に関与する疾患群』であり、糖尿病、心筋梗塞、脳卒中、ガン、等を含む」

こう考えられるようになったきっかけは相次いで発表された論文でした。まず、米国人を対象に、がんによる死亡の原因を推定した有名な論文があります。1981年に出されたもので、それ以前におこなわれた膨大な調査結果をもとに、がんで死亡した原因として、どの環境要因がどれくらいの割合を占めているか分析したものです。

すると、食生活の改善により予防できたはずのがんが35%、禁煙していれば防げたものが30%、ウイルスや細菌などの感染によるものが10%以上、飲酒が3%などとなっており、遺伝的素因によるものはわずか5%でした。1996年には、米国ハーバード大学のがん予防センターも同様の研究をおこない、成人してからの食事と肥満が30%、喫煙が同じく30%で、運動不足が5%、飲酒が3%と、個人の生活習慣ががんの原因の68%を占めていたとしています。この研究でも遺伝的素因は5%でした。

これを円グラフにしたのが図6-4です。この図に出てくる「食事」は、成人になってからの食事内容と肥満のことで、「飲酒」は、その他に入っています。そして「職業」は、おもに化学物質との接触を指します。たとえば石綿、別名アスベストを長年吸い込むことで、肺や心臓などを包む薄い膜や、肺にがんが発生しやすくなることは日本でも大きく取り上げられました。そのため現在では、日本国内での石綿の製造、販売、使用が原則として禁止されています。

どちらの研究も遺伝的素因によるがんが非常に少ないのが印象的ですが、少し補足すると、エピジェネティクスが注目されるようになったのは1980年代後半から1990年代初めにかけてです。そのため、それ以前に出た文献は、遺伝子に明らかな異常がある例だけを「遺伝的素因」とみなしていると考えられます。そうであっても、生活習慣を含む環境要因が、がん発症の約70%にかかわっていたのは確かなので、がんの70%は予防できる可能性があることになります。

ただし、気をつけなければならないのが、これらの研究が米国でおこなわれたものだということです。発表した研究者らも、原因の割合は人種によって変わるだろうと書いています。

2008年の統計によると、米国人が発症したがんのうち最も多かったのは肺と気管のがんで、次いで前立腺がん、乳がん、大腸がん、膀胱がん、白血病の仲間である悪性リンパ腫の順でした。これらのがんに共通して指摘されているのは、喫煙と、脂肪を多く含む食生活が影響するということです。

肺がんの発症数は日本でも増えており、2016年のがん死亡数予測によると、男性は1位、女性は2位です。肺がんと喫煙の関連については、これまでにおこなわれた3件のコホート研究を総合的に分析したところ、日本人は、喫煙することで肺がんによる死亡率が、男性は4・8倍、女性は3・9倍高くなることがわかりました。喫煙の危険は明らかです。

ところがここにも人種差があって、米国人にとって喫煙の害は、日本人とはくらべものにならないほど深刻です。米国公衆衛生総監報告によると、米国人が喫煙すると、肺がんによる死亡率が、男性はなんと22・4倍、女性も11・9倍上がります。先に見た二つの研究で、喫煙を原因とするがんが飲酒によるがんの10倍多かった背景には、これがあるのでしょう。

米国人の肺がんによる死亡率が喫煙でこんなに高くなる原因は十分わかっていませんが、遺伝的素因に加えて、米国の大部分の州は日本より早い18歳から喫煙が可能なので喫煙年数が長くなりがちなこと、1日に吸う本数が多い可能性があることなどが考えられています。また、一部の野菜や果物が肺がんの発症率を下げると言われていることから、米国人は野菜や果物の摂取が足りないのではないかという指摘もあります。

さらに連載記事<「胃がん」や「大腸がん」を追い抜き、いま「日本人」のあいだで発生率が急上昇している「がんの種類」>では、日本人の体質とがんの関係について、詳しく解説しています。

本記事の抜粋元『欧米人とはこんなに違った 日本人の「体質」 科学的事実が教える正しいがん・生活習慣病予防』(講談社ブルーバックス)では、見落とされがちだった「体の人種差」の視点から、日本人が病気にならないための方法をさらに詳しく徹底解説しています。