しびれや痛みがたまらない「脊柱管狭窄症」……悪化すると命にかかわる?

脊柱管狭窄症は、軽症から重症まで進行度はさまざま。だからこそ、正しい知識をもって治療にあたりたいものだ。『名医が答える! 脊柱管狭窄症 治療大全』は、この病気の基礎知識から、良い医者の見分け方や症状を緩和するストレッチまで、あらゆることを網羅した1冊だ。本書から抜粋し、気になる疑問をQ&A方式で解説していく。

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Q 脊柱管狭窄症とは何ですか?

A 「脊柱管狭窄症」は脊柱管が狭くなり、その中を通る神経の束(脊髄馬尾)や束から枝分かれした神経の根元が圧迫されたり神経への血流が低下したりして、症状が現れたものです。その原因から先天性・発育性と後天性に分類されます。患者さんの大部分は後天性です。

首から腰にかけて伸びる背骨は、1本のつながった骨ではなく、椎骨という骨が積み木のように重なってできていて、首の頚椎、胸の胸椎、腰の腰椎から構成されています。こうして連なった背骨は脊柱ともいい、真ん中には「脊柱管」と呼ばれる神経が通るための孔があり、管のようになっています。

脊柱管狭窄症は首から腰のどこでも起こりますが、最も多いのは腰です。これを腰部脊柱管狭窄症といいます。起こった部位によって症状は異なり、腰部では間欠性跛行という重要な症状が現れます。本書では、単に「脊柱管狭窄症」というときは後天性の腰部脊柱管狭窄症を指し、これを中心に解説します。

脊柱管狭窄症の症状は、間欠性跛行、おしりから脚にかけてのしびれや痛みが主なものです。坐骨神経痛、こむら返り、排尿・排便障害が現れることもあります。

なぜ脊柱管が狭くなると症状が現れるのかを、後天性の場合でみてみましょう。

加齢などによって、椎骨と椎骨のあいだにある椎間板の質が変性(劣化)します。すると椎間板はつぶれて、脊柱管のほうへはみ出します。脊柱管の背中側には椎弓をつなぐ黄色靭帯がありますが、椎間板がつぶれた分、この黄色靭帯がたるんできます。たるんだ黄色靭帯は、分厚く硬くなって脊柱管のほうへせり出します。

こうした要因のために脊柱管は狭くなり、脊柱管内の脊髄や馬尾という神経を圧迫します。圧迫された部位によって、さまざまな症状が現れることになります。

また、はみ出した椎間板やせり出した黄色靭帯は、神経への血流を低下させます。血流が滞ると、体内で不要になった老廃物質や、痛みの原因となる炎症性物質が流れずにたまってしまいます。それによって炎症が起こることも、痛みなどの症状が現れる一因になります。

Q 間欠性跛行とはどのような症状ですか?

A 脊柱管狭窄症の診断の決め手となる重要な症状が、「間欠性跛行」です。しばらく歩くと、腰やおしりから脚にかけてしびれや痛みが現れ、徐々に悪化して、それ以上歩けなくなります。立ち続けたときに生じる人もいます。しかし、前かがみになるなどして休むと痛みやしびれが軽くなり、再び歩けるようになります。このように、休み休みでないと歩けない・立てない症状を、間欠性跛行といいます。

●立つ・歩くときに間欠性跛行が起こるしくみ 立ったり歩いたりする姿勢では、脊柱管が前後から圧迫され狭くなりやすいのが第一の原因です。寝ているときに比べ、起きている(立っている、歩いている、腰かけている)ときには、背骨に重力(重み)がかかります。そのため、椎間板のはみ出しや黄色靭帯のせり出しが、神経を圧迫することになります。

次に、本来の背骨は、横から見るとゆるいS字形をしています。脊柱管狭窄症の人は、筋力の低下などから背骨の自然なS字形が崩れていて、とくに腰椎(腰の椎骨)が反りすぎている傾向があります。そこへ、歩いたり立ったりすることで腰椎の反りがさらに強くなり、黄色靭帯がたるんでおなか側へせり出します。すると狭い脊柱管がさらに狭くなって、神経への圧迫が強まり、しびれや痛みが現れたり悪化したりします。

●前かがみの姿勢で楽になるしくみ 前かがみの姿勢では腰椎がうしろへ弓なりになり、黄色靭帯は伸びて脊柱管が広がります。神経への圧迫や血流の低下がなくなることで痛みやしびれが軽快して、再び歩けるようになります。

Q 生活習慣で悪化しますか?

A 悪化の要因としては、まず加齢がありますが、それだけで悪くなることはありません。次のような生活習慣も影響します。

●運動不足 背骨を構成する椎骨や椎間板には、さまざまな動作で大きな力がかかります。運動習慣があって体幹(腹筋や背筋)の筋力が強い人は、腹筋や背筋がその力を受けもってくれるため、背骨への負担が少ないことになります。しかし体幹の筋力が弱い人では、その力がそのまま背骨へとかかりやすくなります。

●姿勢 背骨に何らかの先天性の変形がある場合を除くと、姿勢が悪い人は、姿勢を保つ体幹の筋力が弱いといえます。体幹の筋力が弱ければ、前述のように背骨の負担が強まり、椎間板への負担が増えることになります。単純に悪い姿勢だからといって、症状が悪化するわけではありません。

●喫煙 タバコを吸う人は、吸わない人と比較して手術が必要になるケースが多いことが明らかになっています。くわしい関係はわかっていませんが、喫煙による血流の悪化や体内の酸化が進むことが影響していると考えられます。

●肥満 肥満は、まずその重さが背骨への重さとなり、負担となります。さらに運動不足が原因で太ったり、太ったことで運動不足になったりしている人が多く、背骨を支える体幹の筋力が弱いことになります。

●精神的・社会的なストレス 昔から、痛みと精神的・社会的要因は深い関係があると指摘されています。痛みなどがあると当然思うような活動ができなくなり、精神的なストレスにもなってきます。精神的・心理的な何らかの気質がある人では、気質のない人に比べ、ひとつの症状もより強く感じ、症状も長引きやすくなる傾向があります。また、失業中や職場での上司との折り合いが悪いなどの社会的なストレスも、発症と症状の遷延化(長引くこと)に大きく影響します。

Q 悪化したら、まったく歩けなくなりますか?

A しびれや痛みがひどくなると、このまま歩けなくなるのでは、と不安になる人もいるでしょう。以前、脊柱管狭窄症の患者さんのなかに、立って3メートルも歩けなくなった人がいました。高齢のひとり暮らしの男性で、自治体の職員が車いすに乗せて病院を受診しました。家のなかでは四つん這いで移動して生活し、食事は公的な補助で家に三食届いていたそうです。現在は、ここまで重症の人はまれです。

脚のしびれや痛みのせいで長時間歩けなくなると行動が著しく制限されます。外出するのがおっくうなどの理由から、しだいに体を動かさなくなります。すると足腰の筋力が衰え、体力も低下してきます。体を動かさないと食欲が低下して食事量も減り、たんぱく質やカルシウムなどが不足してますます筋肉や骨が弱くなります。こうした状態が続くと要介護や寝たきりに進むリスクを高めてしまいます。

●ロコモティブシンドローム ロコモティブとは「運動器の」という意味で、運動器とは体を動かす筋肉・関節・骨などの総称です。15年ほど前、変形性膝関節症、腰部脊柱管狭窄症などの中高年になって起こってくる運動器の病気を内科のメタボリックシンドロームにならって、日本整形外科学会が「ロコモティブシンドローム」と名付けたのです。筋肉や骨、関節などに障害が原因で痛みやしびれが起こり、それによって筋力や骨量が低下して、立ち・座りなどの体を動かす機能が低下する状態です。転倒のリスクが高まるだけでなく、骨が弱く骨折しやすいため、それがきっかけで要介護や寝たきりに進むことがあります。

●サルコペニア 加齢や病気などによって筋肉量が減少し、その影響で足腰が弱くなったり、全身の筋肉が衰えたりする状態です。立ち上がる動作や歩くことが徐々におっくうになり、ロコモティブシンドローム同様、要介護や寝たきりの原因につながります。

脊柱管狭窄症の人は動くのがつらいかもしれませんが、ロコモティブシンドロームやサルコペニアの予防のためにも適度な運動を続け、動ける体を維持することが重要です。

Q 悪化したら、命にかかわりますか?

A 脊柱管狭窄症は、がんなどと違って命にかかわる病気ではありません。しかし、立つ・歩く・物を運ぶ・外出するといった、人間の基本的な動作に障害が生じます。それらの活動が思いのままにならないと、不活発な生活になり、足腰が弱り、家の中だけで生活する、「前寝たきり」状態を導くことになります。

不活発な生活や前寝たきり状態は、さらに肥満、糖尿病、動脈硬化、高血圧、脂質異常症、狭心症などの虚血性心疾患、脳梗塞、慢性気管支炎、COPD(慢性閉塞性肺疾患、肺気腫)など、さまざまな病気を引き起こす素地になります。これらの病気は、生命や将来を左右する状態を招きます。

不活発な生活を防ぐためにも、自分で目標を決めるとよいでしょう。近所のスーパーまで往復したい、旅行に行きたい、趣味やスポーツがまたできるようになりたいというように、自分なりの目標を設定すると治療を続ける張り合いになります。

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