新年度もいきなり5106品目が値上げ…収まらない値上げラッシュ…政府と日銀の「決定的な誤り」とは?

値上げの背景

先週土曜日、4月1日を迎え、新年度入りしたものの、値上げラッシュが引き続き猛威を振るいそうだ。信用調査機関の帝国データバンクが3月末に公表した調査によると、今月(4月)値上げする食品や飲料は5106品目と1か月前の調査(4892品目)に比べて214品目増えた。3月末までの3カ月間に判明した今年通年の値上げ品目数(実施済みと計画の合計)も1万8544品目と、最終的に去年の実績(2万5768品目)を上回っても不思議の無い勢いという。

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背景にあるのは、ロシア軍のウクライナ侵攻に伴う穀物価格の上昇とエネルギー価格の高止まり、そして円安の定着だ。

その一方で、岸田政権は3月28日、一般会計の予備費から2兆2000億円を投入する物価高対策を閣議決定した。本来のインフレ・ファイターであるはずの日銀は、物価対策にダンマリを決め込んでいる。

こうした政府・日銀の対応は適当と言えるのか。猛威を振るう物価高の現状を抑えたうえで、考えてみたい。

まずは、帝国データバンクが3月末に公表した「食品主要195社 価格改定動向調査」の内容を紹介しておこう。同調査は、「2023 年度における 1 世帯あたり家計への食費負担額は、節約など値上げへの対策をしない場合、前年の 22 年度月平均から 1 カ月当たり約 2140 円、年間で約 2.6 万円増加することが分かった」と明かし、深刻さを増す家計の苦境に警鐘を鳴らした。

この苦境は、世界的な新型コロナウイルス感染症危機が収束して世界経済が回復し始めると共に物価高が顕在化し始めた2年前の水準との比較でも、「1 カ月当たり約3110 円、年間で約 3.7 万円」の激しいものになるというのである。

そして、食品の分野別に家計の負担額をみていくと、前年度に比べて最も増加が顕著なのは「加工食品」で、月額で 723円の負担増だった。ソーセージなど使用頻度の高い食品の値上げが響いたからだ。

「酒類・飲料」も月額にして 負担が498 円増えた。こちらは、ウィスキーやワイン、缶コーヒーなど嗜好性の高い品目での値上げが目立った。購入頻度の高いパック牛乳などが値上げの対象となった「乳製品」も、月 300 円の負担増になっている。このほか、チョコレートなどの「菓子」(252 円増)、マヨネーズやドレッシングといった「調味料」(145円増)といった分野の負担も増した。

総務省が毎月公表している、2020年平均を100とする「消費者物価指数」も値上げ圧力の健在ぶりを裏付けた。

政府・日銀の対応

主要3指数のうち、「生鮮食品を除いた指数」は103.6と前月比で1.1ポイント低下し、去年1月以来、1年1か月ぶりに上昇率が鈍ったものの、「生鮮食品及びエネルギーを除く指数」をみると逆に0.3ポイント減の102.6となっており、一連の政府によるエネルギー負担の軽減策の影響の大きさを浮き彫りにしたからである。

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ちなみに、総務省は、政府の支援がなければ、2月の消費者物価指数の上昇率は1月と同じ4.2%程度の水準に高止まりしていたと説明しているという。だが、後述するように、こうした支援には手放しに成功と喜べない問題がある。

ちなみに、総務省の資料では、「総合指数」の上昇に寄与した品目として「食用油」(前年同月比27.6%増)、「外食のハンバーガー」(同24.6%)、「卵」(同19.9%)などの食料品に加えて、「電気冷蔵庫」(同26.1%)を中心に家具や家事用品が上昇しており、値上がり品目のすそ野が広がっていることも明らかになっている。

では、政府・日銀は激しい値上げラッシュに対してどういう対応をしているのだろうか。

冒頭でも触れたように、岸田政権は3月28日に、エネルギー価格の高騰などを受けた追加の物価高対策に「予備費」から2兆2000億円余りを支出することを閣議決定した。

その内訳は、
① 国が地方に配る「地方創生臨時交付金」に1兆2000億円を充て、自治体を通じ、LPガスなどを利用する事業者の負担軽減策や、低所得世帯への一律3万円の給付を実施する、
② ①の低所得者世帯への給付とは別に、国費として1550億円を支出し、子育て世帯に子ども1人当たり5万円を給付する、
③ 配合飼料(家畜のえさ)の価格高騰対策に965億円、輸入小麦の政府から民間事業者への売渡価格の激変緩和に310億円、農業用水利施設の電気料金対策に34億円をそれぞれ、充てる、――などとなっている。

電力会社が不正な利益を上げていた可能性

このほか、閣議決定で支出が決まったものではないが、岸田政権が3月22日に今回の物価高対策の概要を決めた際に含めたのが、再生可能エネルギーの普及を支える目的で設置されている固定価格買い取り制度(FIT)の収入源として、各家庭の電気料金に毎月上乗せされている「再エネ賦課金」の引き下げだ。これについても、そもそも問題があったことや物価高対策と言えるのかをみておく必要があるだろう。

振り返れば、2012年のFIT導入時の太陽光などの再エネで発電した電気の買い取り価格は1kWh当たり40円という超高値だった。当時、原子力や火力の発電コストが1kWh当たり10円前後だったことを考えれば、如何に再エネ事業者に法外な利益を与えてきたかは明らかだ。そして、一般家庭が負担する「再エネ賦課金」は膨張を続けてきた。標準家庭の去年の負担額は月額が1380円、年額が16560円に達していたのだ。

この再エネ負担金を、今回、制度導入以来初という減額改定を行い、4月使用分から標準家庭で月820円減らして月額560円に、年額6720円にそれぞれ負担を軽減するというのである。

しかし、この減額措置は物価高対策とは言えない代物だろう。というのは、「足元のウクライナ危機による急激な市場価格の高騰により、再エネ電気の販売収入が増加すること等」を理由に、従来通りの計算式に則って減額が決まったに過ぎないからである。

この減額措置をもっと早くやるべきだったという声もあるという報道があるが、FITには多くの再エネ事業者を利権頼みの企業に堕落させた問題もある。筆者は、むしろ最初からFITという無茶苦茶な再エネ業者支援策が長年にわたって家計の負担を増していた以上、最初から導入したことそのものが政策的な間違いだったと考えている。

また、ようやく実施した「再エネ賦課金」の減額効果を台無しにしかねないのが、大手電力7社が現在、申請中の大幅な電気料金の値上げだ。経済産業省は現在、化石燃料の国際相場が落ち着いていることを理由に値上げ幅を抑えるように指導しているが、この指導もいつもながら電力会社に甘い経産省ならではの生温い対応と言わざるを得ない。

この関連で無視できないのが、中部、九州、中国の電力大手3社と中部電力の子会社を含めた4社が、大企業向けの電力の販売にあたって、お互いの伝統的な営業エリアへの参入を自粛する密約を結び、課徴金制度の歴史上で最高額となる1010億円の納付命令を受けたり、新規参入企業を競争上不利にすることがないようにとの配慮から禁じられている新規参入企業の顧客情報の共有や悪用を、電力大手10社のすべてが配電、小売りの2部門間で行っていたりした問題だ。

これまで、こうした行為を通じて、電力会社が不正な利益を上げていた可能性が否定できない以上、例えば、その不正な利益分を、今回のコスト上昇を理由にした値上げ分から差し引くなどの措置が必要だ。さもないと、国民から値上げへの理解は得られないだろう。一連の競争を阻害する行為への各社のけじめと行政上の処分もない段階で、値上げを認めるようでは、経産省に監督資格はないと指摘せざるを得ない。言語道断の状況だ。

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バラマキを続けると…

話を財政資金の投入による物価高対策に戻そう。

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IMFがこの施策に強く反対しているのは、本来ならば物価が上がれば、利用者が購入を控えることによって需要が落ち着いて、価格が鎮静化するという市場のメカニズムが存在するにもかかわらず、財政資金を投じて物価高対策を講じれば、この市場メカニズムの機能を損ねかねないからだ。

こうした背景もあり、コロナ対策には巨額の財政出動を行った欧米先進国は今、財政赤字の縮小に躍起になっている。例えば、基礎的財政収支の赤字の国内総生産(GDP)に対する比率をみると、米国は、コロナ禍で家計向けの給付など200兆円相当の財政出動を実施したため、単年度のピーク時の赤字比率は13.9%と跳ね上がったが、去年は5.1%と急速に改善している。法人課税の強化をはじめとした歳入面の改革などを断行したのだ。

また、英国もピーク時には13.4%に達した赤字比率をコロナ危機下の所得補償廃止などによって去年は5.8%に下げている。

これに対し、日本は去年の赤字比率が5.6%と、ピーク(6.3%)からの改善が進まず、高止まりしている。

そうした中で、統一地方選挙もあったのだろうが、国会のチェックの目が届かない予備費の活用という形で、コロナ対策の次は物価高対策というような形でバラマキを続けていては、もともと先進国最悪の日本の財政が行き詰まらないか。懸念が膨らむ一方である。

「インフレ・ファイター」という言葉があるように、物価対策は、本来、中央銀行である日銀の金融政策の役割だ。利上げなどの引き締めによって対応すべき問題なのである。

ところが、この日銀は大規模緩和策を長引かせ、事実上、財政資金の調達を容易にする財政ファイナンスの役割を果たしているとか、他の先進国との金利格差が広がり円安を招いているといった批判を浴びている状況だ。

このままでは政府の国債発行額が膨張を続け、日銀は事実上の財政ファイナンスをやめられない事態に陥っても不思議はないだろう。

政府と日銀が分担すべき役割をはき違えて、バラマキを続けては日本経済への信頼が揺らぎかねない。3月28日に参院本会議で可決され、成立した、一般会計総額が114兆3812億円と過去最大の2023年度予算が、そうした終わりの始まりとならないことを祈りたい。

そもそも、こうした物価高対策への財政資金の投入は、国際通貨基金(IMF)のような国際機関を中心に「市場メカニズム」の機能を損ねるとの批判が出ているものだが、そのことは後述するとして、まずは、今回の各項目の是非を考えてみよう。

閣議決定の中で、①は今まさに選挙期間入りしている統一地方選挙での集票を念頭に置いたものとみるべきだろう。新聞、テレビの強い批判の対象にもなっている。というのは、この事業の中で、地方に多いLPガスの利用者や大規模工場の電力契約者の負担軽減を推奨事業と定めているからだ。政府は今年1月使用分(2月検針分)から電気・都市ガス料金の負担軽減策を始めたが、今回はその段階で対象外だったLPガスや大規模工場の電力契約にも負担軽減策を拡大するというのである。大規模工場には業績の良い大企業も含まれるとみられ、明らかに大盤振る舞いが過ぎる感を拭えない。

また、低所得世帯への一律3万円の給付は、困窮者への当然必要な支援という印象を与えるが、実際はそうとばかり言い切れない施策だ。なぜならば、対象として、全世帯の2割が相当する約1200万世帯の「住民税非課税世帯」を想定しており、そういった世帯に多くの年金受給者が含まれているからである。年金受給者は現役世代と違い、基礎控除が大きく、非課税になり易い。このため、新聞・テレビでは、困窮していなくても給付金を支給される確率が高いと批判している。