「デフレ病」日銀の新総裁がだれになろうとも…元凶は10年前の「政府・日本銀行共同声明」 治すつもりない?岸田首相の増税と緊縮路線堅持

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黒田東彦日銀総裁の後任人事についてメディアが騒ぐが、だれになろうと日本国民を全般的に貧しくさせているデフレ病を治せそうにない。元凶は10年前の「政府・日本銀行共同声明」(2013年1月22日発表)にある。

声明は、内閣府・財務省・日本銀行トップの3者連名で、「デフレからの早期脱却と物価安定の下での持続的な経済成長の実現に向け(中略)政府及び日本銀行の政策連携を強化し、一体となって取り組む」とあるが、「一体」とは名ばかりだ。日銀は消費者物価の前年比上昇率2%を物価安定の目標を公約したが、政府のほうは「持続可能な財政構造を確立する」とした。緊縮財政と増税の路線を堅持すると表明したのも同然だ。こうして金融緩和の「一本足打法」が黒田日銀によって始められた。

いや、そうじゃない、政府財政規模は増えていると、新聞はいつも報じているではないか、との疑問があるだろう。だが、それは財務官僚の言いなりになった無知なメディアのミスリードである。

積極財政か緊縮財政かの区別は、まず私たちの所得や生産に直接結びつく社会保障、教育、防衛、公共事業など政策経費の合計額の前年度比でみるのが常識というものだ。そればかりではない。政府が民間から吸い上げる税および印紙収入の増減も勘案する必要がある。政府は消費税増税によって税収を増やしているのに、支出をカットする。すると民間の所得がダブルで政府に吸い上げられる。私たちに還元されないカネは国債償還費として金融機関に振り込まれる。金融機関は増える手元資金を国内ではなく、海外向け投融資の原資に回すのだから、国内需要が萎縮する。それが財務省が固執するゴリゴリの緊縮財政の正体だ。たまに政策支出が多少増えても、税収などの増収分より少ない場合、やはり緊縮効果が生じる。

グラフは、一般会計の政策支出の前年度比増減額から税収などの増減額を差し引いたものと日銀資金供給の増減額を対比させている。ざくっといえば、プラス領域にあれば拡張型財政、マイナスは緊縮財政、ゼロは中立とみなせる。アベノミクスの2013年度以降、19年度までをみると、財政データは16年度と19年度を除けばすべてマイナス、つまり緊縮である。対照的に日銀は巨額の資金供給を続けた。その結果、国内総生産(GDP)全体の物価指数であるデフレーターは消費税増税によって押し上げられたたあとはゼロ%前後に落ち込んでいる。アベノミクスはかくして脱デフレに失敗した。

新型コロナウイルス・ショックの20年度は超拡張型財政支出になったが、21年度以降は大幅な緊縮に舞い戻っている。日銀資金も22年度はマイナスになりそうだから、デフレが続くはずだ。岸田文雄首相はといえば財政は増税と緊縮路線堅持である。日銀の新総裁選びも新味を印象付けたいだけで、デフレ病を治すつもりはないのか、と問いたいところだ。 (産経新聞特別記者・田村秀男)