墓石は移せない、お骨はじつは郵送できる…「お墓の引っ越し」意外なルール

実家を相続したことで、「人生最大の悩み」を抱えてしまったというタレントの松本明子さん。著書『実家じまい終わらせました!』によれば、実家の処分を終え、次は実家近くのお墓をどうするのかの問題を抱えてるという。さまざまな手続きや、細かい決まりがあるという「墓じまい」について、相続・終活コンサルタントで、行政書士の明石久美さんと語る。

「墓じまい」する人が増えている

松本 実はいま、高松にある松本家のお墓を東京へ移そうかと思っていまして。

明石 お墓の引っ越しを考えていらっしゃるわけですね。

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松本明子さん(左)、明石久美さん(右)*祥伝社提供

松本 長く空き家になっていた実家を4年ほど前に処分して、高松にはお墓だけがあるんですが、東京からは遠いのでお墓参りに帰るのも大変だし、この先、高松に縁のない子どもにその負担をしいるのも申し訳ないので、そろそろ近場に移そうかと。

明石 お墓が遠いと墓参りも管理も大変ですからね。住まいの近くに持ってこられないかと考える方は多くいます。

お墓の引っ越しは2009年には約7万2000件でしたが、2019年には約12万4000件と増大しています(厚生労働省「衛生行政報告例」2019年度)。「遠くて大変だから」「お墓を継ぐ人がいないから」というのが主な理由です。

松本 いやー、よくわかります。実際にかなり大変です。ところで、お墓の引っ越しを調べると、「墓じまい」と「改葬」という言葉が出てきます。違いはなんでしょう?

明石 いまあるお墓を解体・撤去して更地にし、その使用権をお寺さんなど墓地の管理者に返還することを「墓じまい」と言います。そのうえで新たに別の場所にお墓を移すのが「改葬」、いわゆるお墓の引っ越しです。ただし、改葬までを含めて墓じまいと言うことが多いので、その場合には二つは同じ意味で使われることになります。

松本 なるほど、そういうことなんですね。

明石 もう一つ言えば、お墓の引っ越しでは、墓石の移転はできないケースが多いため、改葬=「遺骨を移転し、新たな場所で供養すること」を意味します。

墓石まで引っ越すケースは多くない

松本 墓石って移さないものなんですか? お骨と一緒に移そうと思っていたのですが。

明石 お寺さんや民営の墓地では通常、墓石を扱える石材店が指定された業者に限られています。このため改葬では、いまある墓石はその墓地に出入りできる石材店が解体・撤去や処分を行ない、移転後の墓石はその移転先の墓地に出入りできる石材店が建立するのが普通です。

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松本 お寺や墓地ごとに出入りの石屋さんがいるので、自分でどこかの石屋さんに頼んで勝手に墓石を移すことはできないわけですね。それだと出入りの石屋さんは、墓石の撤去や処分でお金が入らないし、新しい墓石も売れなくなっちゃいますものね。

明石 そうなんです。ただし公営の墓地(公共霊園)はそうした縛りがないので、移転先の墓地管理者から許可が得られれば可能ですが、石材店次第です。

墓石の運搬には100万~300万円程度かかったり、搬送中に石が割れたりするリスクもあります。年数の経っている石を運ぶわけですから。

また、移転先の墓所の区画の寸法と既存の墓の寸法が合わない場合もあります。持っていった墓石の加工が必要だったり、外柵や墓碑などの設置ができなかったりすることもあります。

いまの墓石がどれほど立派なものであっても、持っていけばそのまま引っ越し先の墓地にポンとセッティングできるわけではないのです。

松本 あー、そういうことですか。それだけのリスクや費用や手間をかけるくらいなら、改葬先で新しい墓石を購入して建てたほうがいいという判断になるわけですね。

明石 そうなんです。

松本 全然知りませんでした。実情がわかってよかったです。

新しいお墓は先走って買ってはいけない

松本 お墓の引っ越しをする場合、新しいお墓はやはり同じ宗派のお寺を選んだほうがいいのでしょうか。

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明石 そのほうがいいでしょう。別の宗派でも受け入れてくれるお寺さんもありますが、改葬後の読経はそのお寺さんの宗派のそれになります。別の宗派になると戒名などが改めて必要になる場合がありますし、仏壇があればその仏壇をどうするのかといったこともありますから、あらかじめ確認しておきましょう。

松本 改葬先で新しいお墓を建てるにはどれくらいの予算を見ておくべきですか。

明石 墓石代(加工料含む)と墓地代(永代使用料)で100万~350万円程度はかかると思ったほうがいいでしょう。このほかに護持会費(年間管理費)や法要の際のお布施などが別途必要になります。

それと、お墓は基本的に転売ができないことも覚えておいてください。「松本家の墓」と墓石に刻まれたお墓を誰が買ってくれるのかという話で、それだけに購入には十分慎重であるべきです。

特にタイミングは大事。間違っても、いまあるお墓の墓じまいが確実にできる状態になる前に新しいお墓を買ってはいけません。お墓を買ってしまったあとで、親戚やお寺さんとトラブルになり、墓じまいができなくなったりすることがないとは言えないからです。

松本 墓じまいができないと、お骨を移せませんものね。

明石 そうなんです。ですから墓じまいが確実にできるとわかるまで絶対にお墓を買ってはいけません。見学してここはいいわね、と当たりをつけるだけにしましょう。

松本 お墓は、クーリングオフはできないんですか。

明石 訪問販売や電話勧誘で無理やり買わされた場合はクーリングオフの対象となりますが、自ら石材店へ出向いて契約したり、自宅に石材店を招いて契約を交わしたりした場合は、基本的にクーリングオフの対象外です。

松本 出来合いのお墓で、まだ墓石を建立してない手付かずの状態だったら、お寺に事情を説明して、お返しすることはできませんか。

明石 お寺さんによっては、いいですよ、と言って返却に応じてくれるところがあるかもしれません。ただ、自分の意向ですでにお墓の構造物に何かしら加工がなされているような場合は、まず無理ですね。

お骨は「ゆうパック」で送れる

松本 いまあるお墓から取り出したお骨は、自分で新しいお墓まで運ぶしかないんでしょうか。

明石 お骨は石材店に取り出してもらうため、石材店に相談して進めます。取り出したお骨は、カビや細菌などが付着していたり、そもそも骨壺の蓋が開かなかったり、土に還っていたりすることがあるからです。ただ、もしきれいな状態なら、お骨は郵送できるんですよ。

松本 郵送できるんですか!?

明石 「ゆうパック」で送れます。

松本 へーっ、驚きました。知りませんでした。

明石 よくお骨の郵送は違法だと言う方がいらっしゃいますが、確かに海外へのお骨の郵送はできません。禁止です。でも、国内での郵送は認められています。

松本 ほかの宅配業者でも送れますか。

明石 各社とも約款で禁止しているので送れません。日本で唯一お骨を送れるのは日本郵便だけです。それもゆうパックでのみ送ることができます。

松本 料金は?

明石 通常のゆうパックと同じで、重さ、サイズ、距離などで決まります。

松本 お骨の梱包で気をつけることは?

明石 きれいな状態の遺骨という前提ですが、まず骨壺の中に水がたまっていないか確認します。お墓の地下の納骨室(カロート)にあった骨壺は結露や浸水などで水がたまりやすいからです。

ですから、もし水がたまっていた場合は、そのまま送ると郵送中に水が漏れてしまう恐れがあるので、必ず水を抜いて風通しのよい場所で乾かすようにしましょう。

梱包するときは、お骨がこぼれたり、骨壺が割れたりしないように、ガムテープなどで骨壺の蓋を固定します。そのうえで骨壺をビニール袋に入れ、郵送用の箱に収めます。骨壺の周囲に緩衝材を入れて固定すれば出来上がりです。

松本 送り状には何と書けばいいのでしょうか。

明石 送り先や依頼主などの欄は普通に書いて、品名は「遺骨」と書くのがいいでしょう。「割れ物」でもいいですが、遺骨と書いたほうが丁寧に扱ってもらえるようです。ただし、一つ注意が必要なのは、お骨は損害賠償の対象外だという点です。

松本 なぜですか?

明石 遺骨はプライスレスで価値がつけられないためです。万が一、天災や不慮の事故などに巻き込まれた場合はお骨が大きく汚損されたり、紛失して戻って来なかったりする可能性があります。めったにあるとは思えないことですが、不安がある場合は自分で運ぶのがいいと思います。