夫とふたりだけの暮らしは「地獄のようなもの」…3人の子を育てた53歳専業主婦の絶望の20年間

朝のニュース番組で「熟年離婚」が取り上げられ、反響が大きかったという話を耳にする。確かに、家族から、特に夫から解放されて自由になりたい妻と、いつまでも妻がいて当然と思い込んでいる夫との心の距離は近いようで遠い。

それを裏付けるかのような調査もある。既婚女性500人にアンケートをとったある調査では「今の夫と結婚したことを後悔したことはありますか? 」という質問になんと過半数(53.8%)の女性が「はい」と答えている。

結婚を後悔してる理由の内訳を見ると、

・家事や育児に非協力的(49.1%)
・妻の話を真面目に聞かない(32.0%)
・稼ぎが少ない(29.0%)

と続く。本稿でも、そんな夫に愛想を尽かして心の距離がすっかり遠くなった、ある女性の事例を紹介し、結婚生活を続けることの難しさを考えていく。

優しかった夫が結婚してから激変

「50歳になったときは、まだ40代を引きずっている感じだったけど、53歳になるともう立派な50代ど真ん中ですね。今どきの50代は若いなんていうけど、私はもう疲れ果てています。

友人たちは楽しそうに見える。私はただただ孤独だし、生きる意味も見いだせずにいる。結婚したときから、何もかも間違っていたのかもしれません」

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暗い表情でそう話すのは、イクミさん(仮名=以下同)だ。彼女は当時としては早い24歳で結婚した。相手は6歳年上、彼女が短大を出て就職した会社の先輩だった。

「仕事ができてかっこよかったんですよ。私は両親が厳しくて、中学から女子校。短大時代も門限は夜6時。アルバイトもしたことがなかった。そのまま就職して彼に出会って、恋愛なんてしたことないからのめり込んでしまいました」

恋愛を知らなかった彼女だが、夫となった彼へのアプローチは彼女からだった。彼は「大人の女性が好き」という噂を聞き、せいいっぱい大人っぽく振る舞い、手紙を書いて告白した。イクミさんのけなげさに惹かれたのか、彼から「つきあおう」という言葉を引き出した。

「そこから1年弱で結婚しました。結婚後は専業主婦となって3人の子を産み育てたんです。今で言うワンオペでしたね。夫はゴミ出しひとつしたことがないと思う。しかも、夫は結婚してから激変しました」

優しかったのは妊娠するまでだった。妊娠がわかったのは結婚して3ヶ月後。つわりがひどかったイクミさんの体調を心配することもなく、夫は独身時代と同じ生活を続けた。週に3回は飲みに行き、帰宅は深夜になった。もちろん、夕食がいるかいらないかなどの連絡はいっさいない。

「夫が食べなかったものは翌日の私の朝食や昼食になりました。それでも朝は早く起きてお弁当を作らなくてはいけない。あまりにも気持ちが悪くて横にならざるを得ないときがあったんですが、週末で家にいた夫が『ご飯だよ』と言うんです。

作ってくれたのかと思ったら、『ボクのご飯の時間だよ』という意味だった。息も絶え絶えに夫の食事を作り、またすぐ横になった記憶があります」

夫も子どもがほしいと言っていたのに、子どもが生まれるまでのことは考えていなかったようだ。それどころか、会社の同僚の名前をあげて「あの家の奥さんは、まったくつわりがなかったんだって。イクミは偏食だからひどいんじゃないの?」と言い出す始末。

偏食といっても、イクミさんが嫌いなのはせいぜい貝類と鰻くらいなもの。偏食という範疇には入らない。だが、好き嫌いのない夫からみると「嫌いなものがあるだけで偏食」ということになるらしい。

このまま夫と老いていくのかと思うと……

夫にチクチク言われながらも、3人の子を無事に産んだイクミさん。女、男、女の一男二女は年齢が近いせいもあって、ケンカしながらも元気に育っていった。

「子どもたちが小さいころも、夫はまったく手伝ってくれませんでした。今のようにイクメンとかいって子育てに関心があるのが当たり前という時代ではなかったけど、それでも幼い子が3人もいれば父親として自覚が生まれると思うんですよね。でも、夫には生まれなかった。むしろ子どもたちに対抗するように言動が幼くなっていきました」

子どもに妻の愛情をとられた嫉妬なのか、夫はあるときから「きみは忙しいだろうから、家計管理は僕がやる」と言いだし、生活費だけを渡すようになった。

「急に子どもが熱を出して病院に行かなければならなくなり、給料日直前だったのでお金が心もとなかったことがありました。情けなかった……。それ以来、独身時代の預金を必ず引き出しに入れておくようにしたけど、もともと同じ会社だったから私は夫の収入をわかっている。なのに生活費が少ないことに不満もありました」

足りないというと家計簿を見せろという。細かくチェックして、「どうしてこれをこんなに高い値段で買うわけ?」と夫が言ったのは絆創膏だった。息子がケガをして必要となり、うっかりストックを切らしていたので、近くの薬局で買った。

遠くのドラッグストアへ行けば安いのはわかっているが、時間的にもそれができなかったのだ。それにしても細かいとイクミさんがため息をつくと、「どんな思いで仕事をして、どんな思いで稼いでいるかわかってるよね」と夫は言った。

「夫は私を束縛することはなかったけど、お金には細かかったですね。子どもたちを連れて一家で外出しても、絶対に外食はしない。

5人で外食したらいくらかかると思ってるんだというのが夫の言い分。疲れて帰ってきて、私だけが座る暇もなく食事の支度をするしかない。私の疲労度など考えてくれない。子どもたちは成長するにつれて手伝ってくれるようになりましたが、それでも夫だけはガンとして動きませんでした」

子どもの勉強や受験に関して、夫は積極的に口を出した。だが、そのつど、イクミさんの学歴を問題にされた。

彼女が短大出だったこと、両親が大学を出ていないことまで引き合いに出され、「親の頭脳が影響するからなあ」と冗談とも本気ともつかない口調で言われた。そのたびに「親のことはいわないで」というのが精一杯だったという。

末っ子が今年大学を卒業する。夫からずっと目に見えないほど小さなトゲを全身に打ち込まれてきたような日々を乗り越えて、ついに親としての役目を終える。今年の正月、イクミさんはそう感じた。

「それ以来、ずっと体調がよくないんですよ。体調というより心かな。ここ10年ほどパートで働いていて、少しずつ時間を増やしてきました。同世代のパート仲間もけっこういて、みんなで楽しくやってはいるけど、心許せる人はいません。

大人になってからは友だちもできず、夢中になれる趣味もなく、このまま夫とふたりで老いていくのかと思うと、なんだかたまらなくなってしまって……」

夫にも心許せない彼女にとって、夫とふたりだけの暮らしは「地獄のようなもの」だという。さすがに子どもたちも独立した今、夫は金銭的なことは言わなくなったが、その代わり、子どもも大きくなったのだから家をもっと掃除したらどう、と提案しているかのような命令をする。

「もうあなたと一緒にいたくない、と何度口から出かかったことか。それでも離婚したら経済的にはやっていけないし、私が損をするのは目に見えていますから、離婚にも踏み切れない」

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子どもも独立し、ここらで夫から解放されたい気持ちと、一人で暮らすのは難しいという経済的な不安がせめぎ合うイクミさん。心がすっかり離れてしまったあとも、ひとつ屋根の下にいるというのは難しいことだ。

専業主婦という立場で経済的な自立がしづらいことも、彼女の悩ましい思いにつながっているだろう。

そんな彼女に追い打ちをかけるような出来事が起きた。彼女の父親が今年1月に亡くなったのだ。その葬儀の場で、夫が信じられないようなことを口にするーー。詳しくは後編記事〈30年近くモラハラに耐えた53歳専業主婦がついに爆発…父の葬儀で夫が放った「信じられない言葉」〉でお伝えする。