「台湾有事」の避難は…先島諸島から九州へ「1日2万人」輸送、沖縄県が国と図上訓練へ

 沖縄県で他国による武力攻撃などを想定した国民保護法に基づく住民避難の検討作業が本格化している。「台湾有事」となれば影響を受ける先島諸島からの避難について、県は飛行機と船舶で1日最大約2万人の輸送が可能と試算。3月中旬には国、県、市町村が参加する図上訓練を初めて行う。ただ、悪天候など考え得る事態の想定は十分にできていない状況だ。専門家からは避難先での生活支援策の必要性を指摘する声もある。(東慶一郎)

観光客1万人も

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 図上訓練は沖縄県が主催し、内閣官房と先島諸島の5市町村が参加する。政府が武力攻撃が予測される事態と認定すると同時に、県全域を攻撃の恐れがある「要避難地域」とみなし、避難に着手する想定だ。

 避難させるのは、台湾と沖縄本島の間に位置する先島諸島の宮古地域(宮古島市、多良間村)と八重山地域(石垣市、竹富町、与那国町)の住民計約11万人と観光客約1万人。避難先は九州とする。沖縄本島やその周辺の住民約137万人は屋内退避とする。

 訓練では、県による避難指示の発令や、各市町村による島内での避難経路確保や待機場所の運営といった輸送の流れを確認する。

単純計算で6日間

 沖縄県と九州・山口8県は2006年、緊急時に生活必需品や住宅の提供、職員の派遣などを行う「武力攻撃災害等時相互応援協定」を結んでおり、今回は九州7県を避難先に設定した。

 だが、沖縄県が法に基づき策定した国民保護計画では、具体的な避難計画までは定められていない。県はロシアのウクライナ侵略などを受け、昨年5月以降、先島諸島の空港や港湾施設の運営者、就航している民間の航空会社、フェリー会社などと意見交換を重ね、昨年末、日中に確保できる1日当たりの最大の輸送力を初めて試算した。

 宮古島市の宮古空港、下地島空港、 平良ひらら 港、石垣市の新石垣空港、石垣港から民間の航空機と船で分散して避難すると想定。周辺離島からは空路・海路で両市へ移動する必要がある。

 福岡空港や鹿児島新港など九州7県の空港や港湾に到着し、飛行機で1日当たり約1万7500人、船で同約3000人の計2万500人を輸送できることが分かった。単純に連日実施できると仮定すれば、完了まで6日かかる計算だ。

 ただ、各地域で安全が確保されていることが前提で、天候不良時や夜間の輸送については想定されていない。また、事態が切迫すれば、先島諸島に展開する自衛隊の輸送機や艦艇が各地の空港や港湾を使用する可能性があるが、今回の試算では反映できていない。

 沖縄県防災危機管理課の池原秀典課長は「あくまで『基礎中の基礎』の試算で、まだ課題は山積していると思う」と率直に語る。今後も様々な想定や訓練を重ね、県としての避難実施要領を作成する考えという。

「生活の担保を」

 また、避難先となる九州各県の受け入れ態勢についても、具体的な検討はこれからという状況だ。

 今回の訓練でも、各県のホテルや公営住宅にどの程度の避難者の受け入れが可能で、どういった生活支援を行うのかは検討されていない。福岡県の担当者は「国防に関する話なので、国から指示がないと動きようがない」と話す。

 避難先での生活に心配があれば、住民が避難指示に従わない恐れもある。台湾から111キロの与那国町は昨年、有事となってから避難しても町民の命は守れないとして、有事となる前に島外に自主避難する町民に旅費や生活資金を支給するための基金を設けた。

 国民保護に詳しい国士舘大の中林 啓修ひろのぶ 准教授(危機管理学)は「避難先での住居や収入などのめどが立たない中では住民も逃げられない。長距離、長期間の避難者が経済的に困窮化するケースは多い。避難先の生活の担保は丁寧に考えないといけない」と指摘する。

国民保護法 =武力攻撃や大規模テロが発生した時の国民の避難、救援などの措置について、国や地方自治体の役割を定めた法律。有事法制の一つとして2004年に施行された。都道府県や市町村に対し、「国民保護計画」の策定を義務づけている。