M9「スーパー南海地震」がやってくる…いま、日本の地下で起きている「異常事態」最悪の場合、死者は50万人以上

災害の前触れではないか

「午前8時頃でしょうか。玄関を開けると、マスク越しでも分かるくらい、腐った卵のような強烈な臭いを感じました。最初はガス漏れかと不安になりましたが、元栓はちゃんと締まっているんです。異変を感じて集まった住民からは『地殻変動など災害の前触れではないか』という不安の声が多く聞かれました」

こう明かすのは、福岡県福岡市南区の住民だ。’22年12月21日、同市を中心に近隣自治体や隣の佐賀県で「硫黄のような臭いがする」との通報が相次いだ。事実、福岡市中央区春吉の観測地点では、一時、通常値の20倍を超える濃度の二酸化硫黄が観測された。

行政も謎の硫黄臭が発生した原因の解明を急いでいる。

「県の保健環境研究所の解析を進めていますが、原因ははっきりしません。ただ、過去に火山ガスの影響で二酸化硫黄の濃度が上がった事例があるため、今回もその可能性はあります」(福岡県環境保全課の担当者)

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火山ガスは、火山の火口や噴気口から出る気体で、二酸化硫黄も微量ながら含まれているという。だが一方で、今回の九州北部の硫黄臭と火山ガスを結びつけるのは難しいという意見は少なくない。京都大学防災研究所の西村卓也氏はこう指摘する。

「今回の現象が火山に関連したものだとすれば、福岡や佐賀から距離的に一番近い活火山である阿蘇山に由来する可能性はあります。しかし環境省が公開している二酸化硫黄の濃度分布図を見る限り、阿蘇山周辺の熊本県では高くなっていません。原因は別にあると考えるべきです」

地質学的に、九州北部一帯には現在活動中の活火山はない。とすれば、この異臭はどこから発生したのか。中国から飛来したPM2.5に由来するといった臆測も呼ぶ中、にわかに浮上するのが地震だ。

「地震は地下で起こる活断層やプレートのずれによって発生する現象です。この『ずれ』によってマグマだまりに含まれていた二酸化硫黄が出ることもある。一般的に地震はマグマだまりを活性化させるので地震との関連性も考えられます」(京都大学名誉教授の鎌田浩毅氏)

巨大地震の前兆「巨大地震の前兆

日本では古来、不可解な現象は巨大地震の前兆だと伝えられてきた。これらは「宏観異常現象」とも呼ばれ、学術的にも研究が進んでいるが、「異臭」もその一つ。’23年は、関東大震災の発生からちょうど100年にあたる。実は当時のことを記録した内務省編纂の文書『大正震災志』の中にも、地震発生直前、三浦半島の城ケ島や浦賀で異臭騒ぎがあったことが記されているのだ。

では、九州北部の異臭はどんな大地震と結びつくのか。可能性が高いのは、海溝型地震である南海トラフ地震だ。

「南海トラフ」とは、静岡県の駿河湾から宮崎県の日向灘沖までのフィリピン海プレートおよびユーラシアプレートが接する、約700kmの境界を指す。境界からやや離れた九州北部は無関係のように思えるが、実はそうではない。福岡県内にも「南海トラフ地震防災対策推進地域」に指定された自治体はあり、「射程圏内」なのだ。南海トラフ地震の予兆が同地域に現れたと考えてもおかしくはない。

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すでに南海トラフ地震は目前に迫っている。地震問題に詳しい立命館大学環太平洋文明研究センター特任教授の高橋学氏はこう危惧する。

「’22年12月中にも静岡県、愛知県の知多半島、和歌山県、三重県南部と、プレートの境界沿いで地震が続きました。しかも震源の深さがどれも20~40kmと、海溝型地震が起きる深さなんです」

中には震度4と、比較的大きな地震も観測された。硫黄臭のわずか3日前の12月18日、場所は日向灘。地震の規模を示すマグニチュードは5.4だった。高橋氏が続ける。

「この日向灘の地震は、まさに南海トラフ地震が刻一刻と近づいている証左です。近くにある桜島も、ここ数ヵ月盛んに噴火を続けています。南海トラフによって起こるひずみやエネルギーの蓄積が火山活動につながっていると言えます」

損失額は1410兆円の見通しも

政府の地震調査委員会によれば、南海トラフ沿いでM8~9級の地震が発生する確率は、’22年時点で「40年以内に90%程度」と試算。津波などによる想定死者数は32万人以上、被害額は最大220兆3000億円にも達するとしている。

だが、この見通しは甘いという見方もある。

「南海トラフ地震は、早いところでは、津波の発生から到達まで2~3分と予測されるなど、東日本大震災とは比になりません。土木学会の試算では被災後20年間の損失額は1410兆円になるとしています」(前出・鎌田氏)

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これだけでも恐ろしい数字だが、あくまで南海トラフ地震に限った話にすぎない。九州北部とは異なる場所で発生している「異臭」に目を向けると、さらに恐ろしい予測が浮かび上がる。

’20年6月に発生した神奈川県横浜市、横須賀市周辺の異臭騒動は記憶に新しい人も多いはずだが、実は現在も異臭は続いている。横浜市ウェブサイトの「令和2年10月以降、市内で発生している異臭について」と題したページには、’22年11月7日、わずか1時間の間に15件の通報があったと記されている。

2つの異臭が意味するもの

前出の高橋氏はこの異臭が南海トラフ地震とは別の地震の前触れだと考える。

「異臭を発しているのは、三浦半島沖のちょうど地下にある北米プレートとフィリピン海プレートの境目、『相模トラフ』のずれではないでしょうか。現に南海トラフ沿いと同じくらい、ここ最近、茨城県南部から房総半島にかけて地震が頻発しています。近いうちに相模トラフ地震を誘発する可能性は高い」

過去にも、1703年に相模トラフを震源とする元禄関東地震が起き、4年後に南海トラフを震源とする宝永地震が起きた。今、同時期に発生した2つの異臭が示すのは、西と東の巨大地震が連動してほぼ同時に起きる、「スーパー南海地震」である可能性が高い。

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「スーパー南海地震となれば、M9クラスになるのは間違いありません。私の試算では、津波だけでも海に面した場所に住む50万人以上が亡くなるとみられます。

また、巨大地震の発生は、予兆となる地震から約2ヵ月後に起こるとされています。’22年11~12月の異変が前震だとしたら、’23年1~2月がXデー。特に冬場は火事を伴いやすので、もし起これば死者数はケタ違いになるでしょう」(高橋氏)

M9級の巨大地震は来る。新年ムードに浮かれることなく、万一の備えをしておきたい。

「週刊現代」2022年12月31日・2023年1月7日合併号より