ミツバチ、鳥らの受粉媒介不足で農作物収穫量低下、毎年42万人死亡

Anuradha Varanasi | Contributor

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科学誌『Environmental Health Perspectives』に掲載された最近の研究で、不十分な受粉媒介が毎年推定42万7000人の死亡につながっていることが明らかになった。これは受粉が不十分であるために果物、野菜、ナッツの生産量が3〜5%低下したためだ。これにより脳卒中、糖尿病、心血管疾患、さらにはある種のがんにかかるリスクが高くなる。
世界では現在、約7億6800万人が栄養失調状態だ。2015年以降、その数は劇的に増えている。と同時に約20億人が鉄、ビタミンA、亜鉛などの微量栄養素不足に陥っている。いくつかの国が肥満や過体重の人の急増に取り組んでいるが、国民全体の果物、野菜、ナッツの摂取はまだ不足している。その結果、病気の発生率が高まっている。
研究者たちは、こうした公衆衛生問題の大半は農業による環境破壊が原因だと考えている。この環境破壊は土地の劣化と、特にミツバチ、チョウ、ガ、カブトムシ、スズメバチ、鳥、コウモリ、小型哺乳類などの受粉媒介者の生物多様性の損失を引き起こす最大の要因だ。
「また農業による環境破壊は気候変動の大きな要因でもあり、世界の温室効果ガス排出の4分の1から3分の1を占めている。そのため、より栄養価の高い食品をより低い環境負荷で栽培することは21世紀の大きな課題の1つだ」と研究者は研究論文で述べている。

「受粉媒介者の数と多様性を確保することは、世界の食糧システムが直面している栄養面と環境面の課題を解決するための有効な方法の1つだ」とも研究チームは指摘している。
作物のほぼ4分の3は動物による受粉に頼っている。これは、受粉媒介者が風や一部の作物や植物の自家受粉のメカニズムよりもはるかに多くの花粉を運ぶからだ。動物による受粉は受精に理想的な条件を作り出し、種子や果実の生存率を向上させ、ひいては作物の収穫高を飛躍的に高めることができる。
「加えて、動物による受粉は異なる植物間の交配を促進し、つまり同系交配を抑制して遺伝的多様性を高めることができる」と研究者は説明している。

コーヒーやココアといった代表的な商品作物は、その繁栄と繁殖を動物による受粉に大きく依存している。動物の受粉はそれ自体で、世界の農産業に2240億〜5770億ドル(約29〜75兆円)相当の経済的利益をもたらしている。農薬や化学肥料の過剰使用、光害、人為的な気候変動のために「昆虫の黙示録(大量死滅)」を目にし始めていると警告する科学者もいる。
研究者たちはアジア、アフリカ、南米、欧州などさまざまな大陸の農場から得たデータと証拠を用いて、モデルの枠組みを利用した研究を行った。研究チームは受粉が不十分なために作物の損失がどの程度発生するかに注目した。次に、農業経済モデルを用いて、受粉の低下が死亡率や食の脆弱性に及ぼす影響、特にホンジュラス、ネパール、ナイジェリアの開発途上の3カ国における経済的損失を推定した。
失われた食糧生産または経済的損失は低所得国で最も高いが、非感染性疾患に最も苦しんでいるのは中所得国と富裕国だった。中所得国に属する中国、インド、インドネシア、ロシアは公衆衛生上の問題で最も大きな負担を抱えている。一方、低所得国は農業総価値の10〜30%を失い甚大な損失を被った。
「研究結果は、不十分な受粉がすでに世界的に大きな超過死亡を引き起こし、生産地では経済価値の損失をもたらしていることを示唆している。さらに、受粉で生産される食品の供給が減少すると、国内外で価格が上昇し、食品が容易に入手しにくくなることから、食生活や健康状態における不平等が拡大する可能性があることも示唆している」と研究者は結論づけた。

「世界的な受粉媒介者の不足が健康におよぼす影響に関する我々の推定は、保守的なものである可能性が高いことは注目に値する。今日の受粉媒介不足による健康への影響の推定値は、他の主要な世界的リスク要因、すなわち物質使用障害、対人暴力、前立腺がんに起因するものと同程度だろう」と研究者たちは付け加えている。
forbes.com 原文