「日米同盟はまったく予期せぬ事態に陥る可能性」元側近、ジョン・ボルトンが「もしトラ」を語った

今年11月に行われるアメリカ大統領選。ドナルド・トランプ前大統領が再選する「もしトラ」シナリオが現実味を帯びはじめている。その時、世界はどのように変貌するのか。トランプ氏の元側近、ジョン・ボルトン氏が「防衛費」をキーワードに考察する。(取材・構成 大野和基)

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 次のアメリカ大統領選で、もしドナルド・トランプが選出されたら、日米同盟が危機にさらされるのではないか。それが日本政府の抱く最も深刻な懸念の一つでしょう。

 断言できることは、トランプは「同盟の本質」をよくわかっていない、ということです。したがって日米同盟はまったく予期せぬ事態に陥る可能性があります。

〈ジョン・ボルトン氏は「もしトラ」後の世界について、このように語りはじめた。トランプ政権下で2018年4月から2019年9月まで国家安全保障担当大統領補佐官を務め、アメリカの外交・安全保障政策を担った人物だ。
 トランプが再選されたら、世界はどうなってしまうのか? トランプを間近で見てきたボルトン氏に訊いた。〉

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ジョン・ボルトン氏(大野和基氏撮影)

 まず日本人に知っておいてほしいのは、トランプは日米同盟の意義をまったく理解していないということです。アメリカは「親切心から日本を防衛している」と考えており、アメリカの好意に対して、日本が十分な見返りをアメリカに与えていないと考えています。

 相互防衛同盟が同盟国に利益をもたらすこと、すなわち同盟国がばらばらに自国を防衛するよりも、協力して集団安全保障体制を築いた方が、自国を守りやすくなることをトランプは理解していません。日米同盟など続けるだけアメリカの損だと考えている。残念ながら、彼が大統領退任後に賢くなった様子はうかがえません。

 ところが、トランプが大統領の座から去って3年余りが経った今、中国や北朝鮮、ロシアが世界にもたらしている脅威はむしろ高まっています。にもかかわらず、ジョー・バイデン大統領はオバマ元大統領の「戦略的忍耐」政策に倣って何もしませんでした。その間、ロシアはウクライナ戦争を始め、中台の緊張は高まり、北朝鮮は核兵器や弾道ミサイルの開発を着々と進めました。

 岸田文雄首相がすでに表明しているように日本がGDPの2%にまで防衛費を増やすと、日本は世界で3番目の軍事大国になります。

 もし、トランプが再び大統領になったら、日本は防衛費をかなり増やす予定であることを彼にまず説明すべきです。そして、トランプに日米同盟を破壊させないために、彼が政権に就いていたときと今を比べると、世界の情勢が根本的に変わってしまったことをトランプに理解してもらうことが非常に重要になってきます。

世界の緊張は高まっている

 アメリカはすでに緊迫する世界情勢に対して様々な対策を講じてきました。たとえば、2021年にアメリカ、イギリス、オーストラリアの3国間でAUKUS(オーカス)という同盟を組みました。これはオーストラリアの原子力潜水艦開発を支援する名目で始めた軍事同盟です。他にもアメリカはフィリピンと協力体制を築き、アメリカ、韓国、フィリピンの3カ国で軍事演習を行う同意をとりつけました。

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ドナルド・トランプ氏 ©時事通信社

 トランプが再び大統領になってもならなくても、アメリカは防衛費を2022年度のGDP比2.85%から3.5%ぐらいまで増やさなければならないでしょう。レーガン政権(1981〜89年)のときのように5、6%まで上げなければならないかもしれません。あの頃は冷戦の終盤でソ連の脅威が著しく高まっていたので、防衛費もそのレベルまで上がりました。現代の「脅威」は、国際的なテロなど常に警戒しなければならない日常レベルの「脅威」だけではありません。ありとあらゆる「脅威」です。我々は核拡散、サイバー戦争、宇宙戦争すべてを含む脅威に備えなければならない時代に生きています。

「アメリカの国力は非常に限られていて、主な脅威は中国である。そして中国の今の主な関心は台湾にある。であれば、ウクライナ戦争や中東の戦争に目を奪われずに、アメリカは中国、特に台湾に集中すべきだ」という主張がよくなされます。しかし、私はそれとは異なる意見を持っています。

防衛費増が必要

 アメリカが大国であり続ける能力を持っていることは明らかです。その地位を維持するには、さらなる国力が必要です。だからこそ、アメリカは防衛費を増やさなければならない。世界の安定を保つことでアメリカは繁栄し続ける。アメリカの経済力であれば、それを実現することは容易に可能です。ですから、アメリカがヨーロッパや中東のことは忘れてアジアだけに重点を置くのは、戦略的に間違っています。アメリカが一つの地域から目を離せば、必ずその隙に中国やロシアなど他の敵対国が足を踏み入れてくるからです。

 私が最も危惧しているのは、中国の脅威だけに専心していればいい、という考え方をしているうちに、アメリカがある種の「孤立主義」に陥ってしまうことです。

 アメリカが防衛費をGDPの5、6%まで上げるとなると、同盟諸国に対して、3、4%まで上げるよう求めるのは当然です。再選されたトランプがそれを要求しても私は驚きません。

 今年の3月、イギリスのグラント・シャップス国防相が、将来的にイギリスの防衛費をGDP比3%まで上げることを考えていると発言し、ヨーロッパで活発な議論が行われるようになりました。

 NATO(北大西洋条約機構)は今年で設立75周年を迎えましたが、その将来についても多くの議論がなされています。今まさに我々は適切な防衛費支出がどれぐらいなのかを再検討している最中です。NATO諸国が直面している脅威は増すばかりで避けられないからです。

 今年2月のサウスカロライナ州の選挙集会で飛び出した、トランプのNATOに関する発言が物議を醸しました。かつて大統領としてNATO首脳会議に参加した際に、ある大国の大統領から「我々が防衛費を十分支出せず、ロシアから攻撃を受けたら、守ってくれるか」という質問を受け、「いや、守らない。ロシアにやりたいことは何でもするよう奨励するだろう」と答えた、というのです。これはヨーロッパの同盟国に防衛費の増額を認めさせるための脅しなのか、それとも本気でNATOを離脱するつもりなのか。それをめぐって議論が湧き起こりました。