じつは、脚が「ガクガクになる」のには、理由があった…下山時に、やったほうが「絶対にラクになる」歩き方

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登山人口は年々増加の一途をたどり、いまや登山は老若男女を問わず楽しめる国民的スポーツになっています。いっぽう、登山人口の増加に比例して山岳事故も増えており、安全な登山技術の普及が喫緊の課題となっています。

運動生理学の見地から、安全で楽しい登山を解説した登山と身体の科学 運動生理学から見た合理的な登山術』(ブルーバックス)から、特におすすめのトピックをご紹介していきます。

山頂の景色を楽しんで充実した気分で降り始めたものの、「上りよりきつかった」「膝がガクガクになった」といった経験をした方は多いのではないでしょうか? 今回は、降りるときの歩き方のポイントや工夫についての解説をお届けします。

【書影】登山と身体の科学

*本記事は、『登山と身体の科学 運動生理学から見た合理的な登山術』(ブルーバックス)を再構成・再編集したものです。

下りでの上手な歩き方

下りでの疲労を防ぐにはどうすればよいでしょうか。

疲労の要因は、A脚筋が伸張性収縮をすること、B着地時の衝撃力が大きいこと、の2つです。したがって、これらによるダメージをできるだけ小さくする工夫を考えます。

図「同じ人がさまざまな下り方をしたときの着地衝撃力の違い」は、同じ人が30cmの段差で、さまざまな下り方をしたときの着地衝撃力を測ったものです。

普通に下ると体重の約2倍の力を受けます。これをわざと乱暴に下れば、受ける力は3倍以上にもなります。重い荷物を背負えば、そのぶんだけ衝撃力も増えます。登山の技術書には、ていねいな歩き方をする、無駄な荷物は省くと書かれていますが、その理由がわかると思います。

【グラフ】同じ人がさまざまな下り方をしたときの着地衝撃力の違い同じ人がさまざまな下り方をしたときの着地衝撃力の違い(山本、2000)

いっぽう、段差を半分の15cmにすると(つまり歩幅を狭くすると)、衝撃力はかなり小さくなります。そのぶん歩数は2倍になるので、疲労の程度は同じになると思うかもしれませんが、そうではありません。人間の身体の性質として、ハードな作業をする場合、それを1回でこなすよりも、小分けにして複数回の作業にしたほうが、身体へのダメージを小さくできるのです。

歩幅を狭くすることには、大腿四頭筋の伸張性収縮の程度を小さくする、という意義もあります。これによって筋の損傷が軽減され、筋力の低下を防ぐことにつながります。

その結果、下りで脚がガクガクになりにくくなり、登山後に起こる筋肉痛も最小限にできます。

歩き方を変えて、筋の負担を分散させる

歩き方を変えて、大腿四頭筋への負担を小さくしてやるのも有効です。斜面に対してまっすぐ前向きで下るのではなく、身体を斜め、あるいは横向きにして下るのです(図「大腿四頭筋への負担を減らす下り方」)。

このとき膝関節をあまり曲げず、お尻から重心を下ろしていくようにすると、殿部の筋にも負担を分散でき、大腿四頭筋への負担を減らせます。

これはスクワット運動をするときに、膝をなるべく前方に出さず、お尻から下ろすように指導されるのと同じことです。またこのとき、谷側にトレッキングポールを突いてから、足をそっと下ろすようにすれば、下半身にかかる負担をもっと小さくできます。

岩混じり、あるいは木の根がからみ合ったような急な段差の部分では、前向きではなく後ろ向きになって、腕も使いながら下りるようにします。こうすると、負担を全身の筋に分散させることができるので、楽にもなりますし、バランスをとりやすくもなります。

【図】大腿四頭筋への負担を減らす下り方 大腿四頭筋への負担を減らす下り方 (山本、2016)

前記の工夫は一例です。登山中のさまざまな場面で、使う筋を上手に分散させて疲労を防ぐということを、自分で考え、身体を使って試行錯誤していくとよいでしょう。

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*次回は、本記事でも登場したトレッキングポール使う際のポイントについて、簡単にご説明します。